本研究は、①造血器腫瘍に対する骨髄移植後の腸内細菌叢の採取と同定、②AIを 用いた機械学習による腸内細菌叢の分類と、移植後臨床データベースとの融合と解析、 ③マウス実験モデルでの同様の検討と生菌製剤を用いた予防実験、およびそれを踏まえたヒト臨床試験の準備、に分けられる。 ①の腸内細菌叢採取に関しては、移植前処置開始から2ヶ月に渡り、患者便検体を 毎週採取する。細菌に特異的な遺伝子である16SリボゾームRNAコード遺伝子の塩基配列を、次世代シーケンサで決定する。このメタゲノム解析により、検体に含まれる 腸内細菌叢の構成を同定し、各患者でdysbiosisを時系列に沿って解析している。 検体採取は順調に進行し、これまでに合計21患者を対象とし、100サンプル以上を検討した。予定したプロトコールによって、患者からの同意取得、検体の採取、院内 検査室への搬送、解析研究室への輸送、検体の保存、次世代シーケンスを用いた測定、 コンピュータを用いた解析には大きな問題は発生せず、予定通り進捗している。結果は、属レベルまでの細菌分類が可能であった。これまでの結果を解析したところ、Shannon index(細菌叢の多様性を反映)は、移植前に最高値を記録し、その後、移植後21日目で最低値を取った後、徐々に改善することが分かった。Chao1 indexも同様の経過を 経ていた。さらに詳細に解析すると、ShannonおよびChao1 indexは、より強い前処置である、骨髄破壊的前処置を受けた患者でより大きく低下することが分かった。また、腸管細菌叢の多様性喪失(dysbiosis)は、腸管内の残存抗生剤濃度と関連することが 分かった。とりわけ、メロペネムやピペラシリンは濃度依存的な関連性が判明した。 現在メタゲノムデータの解析中である。
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