タンパク質の機能調節機構の一つであるアセチル化を標的とした治療戦略は白血病に対する新たな治療法として魅力的であるが、その研究はあまり進んでいない。LMO2タンパクは正常血液の形成に不可欠な役割を果たす一方、その異常は T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の発症に関与している。正常血液の形成においてNAD+・NAMPT・SIRT2経路を介したアセチル化の除去がLMO2タンパクを活性化するという申請者が得た新たな知見をもとに、本研究ではNAMPT・SIRT2経路の阻害薬がT-ALLに対して治療効果をもつかを検討した。 LMO2タンパクを発現するT-ALL細胞株およびT-ALL患者細胞に対しNAMPT阻害剤・SIRT2阻害剤が細胞増殖抑制効果を示すことをin vitroおよびin vivoの実験で明らかにした。分子メカニズムの評価についても、これらの阻害剤によりTAL1複合体の標的遺伝子の発現低下がみられることを確認し、RNAシークエンスによりLMO2タンパクのアセチル化により発現が変化する遺伝子を同定した。これらの結果はLMO2のアセチル化を標的としたT-ALLに対する新たな分子標的療法の開発につながる成果である。以上の結果を論文にまとめ投稿し、受理された。 本年度はさらにNAD+代謝経路の造血幹細胞の維持・増殖における役割の解析に取り組んだ。NAD+代謝経路に着目して培地成分の検討を行った結果、ヒト臍帯血由来CD34陽性造血幹・前駆細胞の増殖速度を抑制することができ、従来の培養条件では細胞増殖とともに低下する造血幹細胞分画の割合を高く保つことができる培養条件を見い出した。また、代謝関連白血病としてIDH遺伝子変異白血病の研究も行い、IDH2変異白血病では脂肪酸代謝経路に変化がみられ、結果として細胞死耐性を獲得していることが明らかとなった。
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