研究課題/領域番号 |
19K17836
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
石黒 一也 札幌医科大学, 医学部, 訪問研究員 (90784439)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫は予後不良な疾患であり、新規治療薬の探索が必要である。ヒストンメチル化修飾の異常は様々ながんの発生や進展に関与するが、多発性骨髄腫における知見は十分ではない。我々はヒストンメチル化酵素であるDOT1Lの阻害が、IRF4-MYCシグナルを抑制することで骨髄腫細胞の増殖を抑制することを明らかにした。本研究はDOT1L阻害の作用機序をさらに解明し、臨床応用につなげることを目指した。我々はまず、多発性骨髄腫において、DOT1Lの阻害が免疫反応を上昇させることに着目した。理由としては、近年多発性骨髄腫において、thalidomide、lenalidomide、pomalidomideといった免疫調節薬やelotuzumab、daratumumab、isatuximabといった抗体製剤など、免疫を標的とした治療が主流であり、一定の治療効果を示しているからである。我々はDOT1Lの阻害が免疫反応を上昇させる機序の一つとして、内在性レトロウイルスの再活性化を見出した。さらに他のヒストンメチル化修飾にも着目し、ヒストンH3リジン27メチル化酵素(EZH2)とヒストンH3リジン9メチル化酵素(G9a)の阻害も免疫反応を上昇させることを見出した。DOT1Lの阻害による抗腫瘍効果にも免疫反応は大変重要であると考えられたことから、我々は他の2種類のヒストンメチル化修飾酵素にも着目し、DOT1Lとの関連も含め、統合的に解析を行っていくこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、DNAメチル化酵素阻害剤などのエピジェネティック阻害剤により、内在性レトロウイルスが再活性化され、免疫反応が上昇し、抗腫瘍効果を呈するという報告が散見され、我々も骨髄腫細胞株でDOT1Lを阻害し、定量RT-PCRで内在性レトロウイルスの発現の変化を確認した。その結果、多くの骨髄腫細胞株で、DOT1Lの阻害により、内在性レトロウイルスの発現が上昇していることが確認された。またDOT1Lの阻害によりヒト主要組織適合遺伝子複合体の発現が上昇することも明らかとなり、DOT1Lの阻害は自然免疫と獲得免疫の両者を賦活化する可能性があると考えた。 一方で我々は、EZH2とG9a両者の阻害が、相加的に骨髄腫細胞の増殖を抑制することを見出した。さらにフローサイトメトリー解析で、両酵素の阻害が骨髄腫細胞に細胞周期停止を誘導し、アポトーシスを引き起こし、細胞増殖を抑制することを確認した。次に我々は、両酵素を阻害した骨髄腫細胞を用いて、マイクロアレイアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、両酵素の阻害によりインターフェロンシグナル関連遺伝子の発現が有意に上昇していることが分かった。さらに両酵素の阻害により内在性レトロウイルスが再活性化されることも明らかとなり、インターフェロンシグナルの上昇の原因との一つと考えた。一方、両酵素の阻害により、DOT1L阻害の際と同様に、IRF4-MYCシグナルも抑制されていることが明らかとなった。我々はこれらの研究結果を論文として報告した。(Ishiguro, et al. Cell Death Discov, 2021) IRF4-MYCシグナルは免疫反応にリンクしていると考えられ、EZH2とG9aは、DOT1Lと相互作用している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、DOT1L、EZH2、G9aの阻害による免疫反応の上昇の機序を明らかにするために、それぞれのヒストンメチル化修飾に対するクロマチン免疫沈降シークエンスのデータと、遺伝子発現の変化のデータの統合的な解析を行い、DOT1L、 EZH2、G9a間の相互作用を明らかにする。そしてそれぞれの阻害剤による免疫賦活化の確認のために、ヒトリンパ球を用いた細胞性細胞障害活性の測定実験を行う。またDOT1LとEZH2の阻害、あるいはDOT1LとG9aの阻害、さらに三者の阻害で、抗骨髄腫効果に相加的な作用がないか、細胞増殖アッセイで確認する。さらに、thalidomide、lenalidomide、pomalidomideといった免疫調節薬との併用で、相乗効果がないか細胞増殖アッセイで評価する。 一方で、DOT1L阻害自体の作用機序をさらに解明するために、shRNAライブラリスクリーニングを行い、DOT1L阻害への抵抗性メカニズムを明らかにし、また前臨床試験として、in vivoマウスモデルを用いてDOT1L阻害剤の持続投与による抗骨髄腫効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度にshRNAライブラリスクリーニング、in vivoマウスモデル実験を行う予定であったが、条件検討に時間を要したため行うことができず、次年度使用額が生じた。 2021年度はこのshRNAライブラリスクリーニング、in vivoマウスモデル実験に加え、大きな実験としては、DOT1L阻害による免疫賦活化を確認するために、ヒトのリンパ球を用いた細胞性細胞障害活性の測定実験を行う予定である。また研究成果を論文にまとめ、投稿する予定である。
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