研究実績の概要 |
本研究は慢性GVHDの治療法開発を最終目標として, 同種抗体(H-Y抗体)の産生機構の解明に焦点をあて, ①H-Y蛋白質/MHC class II複合体の形成機構, ② H-Y蛋白質/MHC class II複合体によるH-Y抗体産生B細胞の活性化機構, ③ CMV感染によるH-Y蛋白質/MHC class II複合体形成の促進化機構を明らかにすることを目的としている。 当該年度は①に関してH-Y蛋白質全体がMHC class IIと複合体を形成するかどうかを検証するためにヒト細胞株にH-Y抗原として代表的なDBY蛋白質とMHC class IIの遺伝子を導入し, フローサイトメトリーと免疫沈降法により複合体の細胞膜上の発現を解析した。MHC class IIのアレルに関しては, 慢性GVHDに感受性が高いアレルは明らかとなっていないため, Immune Epitope Databaseを参照し, DBY蛋白質と結合力が強いと予測されたものを2つ選択した。 フローサイトメトリーの結果, DBY蛋白質は細胞内蛋白であるが, MHC class IIを共発現させることで細胞表面への発現の上昇が見られた。この現象は, 選択したMHC class IIのいずれのアレルでも見られ, ヒト細胞株を変更しても同様であった。免疫沈降法の結果でもDBY蛋白質はMHC class IIと共に沈降が見られ, さらにペプチドに分解された状態ではなく, 蛋白質の状態で結合していることが判明した。 これらの結果よりH-Y蛋白質は仮説通り, ペプチドに分解されず, 蛋白質のままでMHC class II複合体を形成し細胞膜上に発現することが明らかとなった。これらの結果は, 過去に報告がなく, 慢性GVHDの原因である同種抗体に対する抗原の発現メカニズムを明らかにしていく過程おいて大変意義深いと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は, 同種抗体(H-Y抗体)の産生機構を明らかにする上で, 「H-Y蛋白質がMHC class IIとペプチドに分解されない状態で複合体を形成する」という仮説から成り立っており, この部分が証明されなければその後の研究計画を大幅に変更する必要があった。そのため, 当該年度にH-Y蛋白質がMHC class IIと複合体を形成することを明らかにできたことより, 研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の3つの目的の1つを達成したため, 次年度以降は② H-Y蛋白質/MHC class II複合体が慢性GVHD患者の生体内で形成され, H-Y抗体を誘導するかどうか, ③ H-Y蛋白質/MHC class II複合体形成を促進させる因子が何かについて解析を行う予定である。 具体的に②に関しては同種造血幹細胞移植患者の血清を用いて, 慢性GVHD患者でH-Y蛋白質/MHC class II複合体に反応する抗体が存在するかどうか, また炎症組織においてH-Y蛋白質/MHC class II複合体が形成されているかどうか検証を行う。③に関しては, 研究当初はサイトメガロウイルスに注目していたが, それ以外の炎症条件でもH-Y蛋白質/MHC class II複合体形成が促進されるかどうか解析を行う予定である。
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