慢性GVHDは同種造血幹細胞移植後に自己免疫疾患様の症状を呈して発症する難治性の疾患である。病態機序の解明はマウスモデルを中心に解析が行われているが、慢性GVHDを正確に反映するモデル動物とは言い難く、患者の体内で実際どのようなことが起きているかは不明な点が多い。本研究では慢性GVHDのリスク因子の一つである同種抗体(H-Y抗体)に焦点を当て、標的側のH-Y抗原の発現メカニズムを解析することで、慢性GVHDの病態機序に迫ることを目標としている。H-Y抗原は、Y染色体由来の細胞内タンパク質であり、健常人では精巣で主に産生され、慢性GVHDにおけるH-Y抗原の発現機構・発現部位は今まで明らかとなっていない。 今までの研究により、H-Y抗原は単独では細胞膜上に発現せず、全長のままでMHCクラスIIと複合体を形成することで細胞膜上に提示されることが明らかになった。患者の病変組織では特定の細胞に発現していることが確認された。また、移植後早期にこの複合体に対する抗体を有する患者は、その後の慢性GVHDの累積発症率が有意に高くなることが明らかになった。 最終年度に実施した研究に関して、この複合体の形成はMHCアレル依存性であり、この複合体を形成しやすい、もしくは、形成しにくいMHCアレルは、慢性GVHDの発症リスクと有意に相関することが明らかになった。さらに複合体を発現させた細胞株に患者血漿由来の抗体を添加すると細胞の種類によって細胞死、線維化を引き起こすことが明らかになった。 以上より、標的部位におけるH-Y抗原/MHCクラスII複合体の形成は、B細胞を介した慢性GVHDの病態形成に極めて重要な働きをしていることが明らかとなった。これらの成果は、今後同種抗体の産生制御を介した慢性GVHDの新規治療法を開発する上で重要な糸口と考えられる。
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