研究課題
酸性環境が及ぼす骨髄腫(MM)細胞の細胞外酸感知受容器(pHセンサー)の発現と生存シグナルの調節機序を検討し以下の結果を得た。1) 酸性培地でMM細胞株を培養すると、Aktのリン酸化とともにPim-2キナーゼの発現が誘導された。2) MM細胞株ではTDAG8、OGR1、TRPV1などのpHセンサーが様々なレベルで発現していたが、酸性環境下ではこれらの発現が亢進した。3) PI3K阻害薬LY294002の添加により、酸性環境下でのAktのリン酸化の誘導が消失するとともに、これらのpHセンサーの発現亢進も減弱した。4) 酸性下ではMM細胞の転写因子Sp1の核移行が促進され、この核移行はLY294002の添加によって抑制された。また、LY294002およびSp1阻害薬terameprocolの添加により特に低pH領域(pH4~7)を感知するTRPV1の酸性下でのMM細胞における発現亢進が抑制された。TRPV1のアゴニストresiniferatoxinの添加によりpH7.4においてもMM細胞にAktのリン酸化が誘導された。5) 酸性下ではMM細胞における転写因子Sirt1の核移行も促進されていた。酸性下のMM細胞でのTDAG8の発現亢進はSirt1阻害薬Ex527の添加により用量依存的に抑制された。また、TDAG8のアゴニストpsychosinの添加によりpH7.4においてもMM細胞にAktのリン酸化が誘導された。以上より、MM細胞は酸を感受しPI3K-AktおよびPim-2を介する生存シグナル経路を活性化し、この活性化がさらに自らのpHセンサーの発現を増強させるという悪循環を形成していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
培養系の実験は予定通り進められており、MM骨病変部酸性環境は、MM細胞の酸感受性を亢進させつつ生存シグナルを活性化し、MM細胞は酸などのストレスに順応していることが示唆された。動物実験に関しては、酸環境下において抗腫瘍活性を発揮する新規合成化合物をスクリーニングしていたが、現時点で新規構造のチアゾリヂンジオン化合物でよい活性を示すものが複数確認できたため、化合物を絞り今後行う。
1)培養系の酸環境下において抗腫瘍活性を発揮するチアゾリヂンジオン化合物の活性構造相関により構造展開し合成された新規化合物のスクリーニングをさらに続け、動物モデルでの効果を検証する。また、既存の抗腫瘍薬の酸環境での活性と対比しながら、どうして新規化合物が酸環境で抗腫瘍活性が強く発揮されるのかなどについての検討を進める。2)酸性環境によって、腫瘍細胞の機能に関わる多くの遺伝子の発現がエピジェネティックなメカニズムによって制御されていたため、酸環境内での骨髄腫細胞の代謝動態や生存機序を詳細に検討し治療標的を同定する。3)さらに初年度の成果を基盤に、骨髄腫細胞に特徴的な細胞外酸感知受容器と酸排出に関わるモノカルボン酸トランスポーター(MCT)の発現制御機構、MCT阻害による細胞内乳酸蓄積の骨髄腫細胞株での細胞内代謝の変調、自己複製能やSP分画の生存に及ぼす効果を明らかにする。
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