研究課題/領域番号 |
19K17866
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木下 史緒理 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (70832062)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ARK5 / 多発性骨髄腫 / 薬剤耐性 / 髄外病変 |
研究実績の概要 |
予後不良な多発性骨髄腫では、早期の多剤治療への耐性獲得および髄外病変の進展がみられる。ARK5は予後不良染色体異常(t(14;16)転座およびt(14;20)転座等)で発現するlarge MAF familyによって恒常的に発現している。ARK5は上皮系腫瘍では上皮間葉転換(EMT)による転移の促進に関与すると報告されており、多発性骨髄腫においても悪性能獲得に関与している可能性がある。本研究では、骨髄腫細胞の悪性能獲得のメカニズムとして、①骨髄腫細胞の分子標的薬への耐性獲得 ②髄外病変の進展の促進 の2点におけるARK5の関与を世界で初めて解明し、ARK5活性化による悪性度の高い骨髄腫細胞に対する有効な治療法の探索を目的とする。 一般に、がん細胞は低酸素、低栄養下での生存に長けている。ARK5は低酸素、低栄養下でより活性化するとの既報を踏まえ、今年度は骨髄腫細胞の低酸素、低栄養下におけるARK5の意義について検討をすすめ、低酸素、低栄養下において、ARK5の発現が増強することを確かめた。今後は低酸素耐性骨髄腫細胞株を作成し、低酸素、低栄養下での骨髄腫細胞の進展の機序を解明すること、各種治療薬への耐性獲得の機序を解明することを目標に、検討をすすめる予定である。 また、骨髄腫細胞の増殖および髄外病変促進能の検討のため、骨髄腫細胞を用いて、ARK5のノックダウン株、過剰発現株の作成途中である。作成したノックダウン、過剰発現株を用いて、骨髄腫細胞の増殖および髄外病変促進能の検討、各種治療薬への耐性獲得の機序を検討していく。 また、免疫染色で機能する抗体を同定したのち、ARK5を発現している患者の骨髄検体、髄外病変検体を用いて免疫染色によるARK5発現の評価を行い、髄外病変進展の機序の検討をすすめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は骨髄腫細胞株の低酸素、低栄養下におけるARK5の意義について検討をすすめた。低酸素下で骨髄腫細胞株を培養すると、通常酸素濃度下と比較し、細胞増殖が抑制されたが、細胞のviabilityには差はなかった。ARK5の発現量は経時的に増加した。また、低グルコース濃度の培地と通常グルコース濃度の培地で比較したところ、同様に細胞増殖は抑制されたが、viabilityは差がなかった。ARK5は低酸素下と同様、発現量は増加した。今後、低酸素耐性骨髄腫細胞株を作成し、酸素下での骨髄腫細胞の進展の機序を解明すること、各種治療薬への耐性獲得機序の検討を進める。 また、骨髄腫細胞の増殖および髄外病変促進能の検討のため、ARK5ノックダウン細胞株の作成を試みている。エレクトロポレーション法で各種骨髄腫細胞株で試みたが、十分なノックダウンが得られなかった。今後、方法を再検討し、ノックダウン細胞株を作成する。また、過剰発現株も作成し、ノックダウン株、過剰発現株を使用して、骨髄腫細胞の増殖および髄外病変促進能の検討、各種治療薬への耐性獲得の機序を検討する。 患者検体を用いての検討では、ARK5の発現のある患者とない患者でのOSを比較し、ARK5の発現している患者ではOSが有意に短いという結果をすでに得ている。MAF陽性患者では全例にARK5の発現を認めたが、c-MAF陰性の患者でもARK5の発現を認める患者がおり、ARK5発現の機序についての検討をすすめる予定である。また、髄外病変でのARK5の発現を確認するため、免疫染色に用いることができる抗体を検索し、髄外病変、骨髄病変でのARK5発現の違いを検討し、髄外病変進展の機序を解明したい。 上記検討を進めているが、2019年9月から2020年3月まで半年間、産休育休のため研究が中断していた。2020年4月より復帰したため、上記の検討をすすめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ノックダウン細胞株の作成方法を再検討中であり、骨髄腫細胞株を用いて、ARK5のノックダウンおよび過剰発現株の作成を目指す。作成したノックダウンおよび過剰発現株を用いて、細胞増殖能の変化、EMT関連因子の蛋白レベルでの発現変化および骨髄ストローマ細胞との接着因子の発現変化、その他髄外病変進展に関与する因子を検討する。さらに、ARK5のノックダウンおよび過剰発現株をそれぞれscidマウス(NOGマウス)に移植し、髄外病変の数・分布を確認し、髄外病変部位におけるEMT関連因子や接着分子、その他髄外病変進展に関与する因子の発現の変化を検討する。また、ARK5ノックダウン・過剰発現株における、ボルテゾミブおよびレナリドミドの抗腫瘍効果を検証し、それぞれの薬剤の標的である、プロテアソームおよび、CRBNおよびその関連因子(IKZF1, IKZF3, IRF4など)の発現量の変化を解析する。 免疫染色に適する抗体を選択後、患者の髄外病変の生検検体における、ARK5の免疫染色による評価と生存期間との関連を検討する。 さらに、昨年度購入した低酸素培養器を用い、低酸素下でのARK5の腫瘍生存・髄外病変進展への寄与についての研究を進める。具体的には、低酸素耐性骨髄腫細胞株を樹立し、ARK5発現の変化、薬剤耐性、マウスを用いた髄外病変進展の検討をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年9月から2020年3月まで産休育休のため研究中断していたため、研究費使用が予定より減少したため、次年度使用額が生じた。
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