予後不良な多発性骨髄腫では、早期の多剤治療への耐性獲得および髄外病変の進展がみられる。ARK5は予後不良染色体異常(t(14;16)転座およびt(14;20)転座等)で発現するlarge MAF familyによって恒常的に発現している。ARK5は上皮系腫瘍では上皮間葉転換(EMT)による転移の促進に関与すると報告されており、多発性骨髄腫においても悪性能獲得に関与している可能性がある。本研究では、骨髄腫細胞の悪性能獲得のメカニズムとして、①骨髄腫細胞の分子標的薬への耐性獲得 ②髄外病変の進展の促進 の2点におけるARK5の関与を世界で初めて解明し、ARK5活性化による悪性度の高い骨髄腫細胞に対する有効な治療法の探索を目的とする。 ARK5阻害薬が骨髄腫細胞株、患者由来CD138陽性細胞の増殖を抑制することはすでにデータを得た。続いてARK5阻害薬を使用して、作用機序を検討した。固形がんではARK5はEMTに関連すると同時にmTOR経路を阻害すると報告されており、骨髄腫においてもmTOR経路、カスパーゼなど複数のパスウェイにおける作用を検討した。また、骨髄腫において、E-cadherinは低酸素状態になると、発現が低下し、骨髄腫の髄外進展を促進する、と既報がある。ARK5が低酸素になると発現が増強することはすでに確認しており、E-cadherinを始めとするEMTとARKの関連を検討することは、髄外進展の機序の解明の一助となると思われた。患者骨髄由来CD138細胞の検討では、71例中E-cadherinの発現を認めたものは、17例(24%)であった。E-cadherinの陽性陰性でOSに差はなかったが、ARK5とともに検討すると、ARK5陽性かつE-cadherin陽性群で最もOSが短く、ARK5陰性かつE-cadherin陽性群で最もOSがよかった。
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