研究課題
マントル細胞リンパ腫(MCL)の発生母地であるナイーブB細胞では、通常、B細胞受容体(BCR)シグナル経路の活性は低いのに対し、MCLではBCRシグナル活性の過剰活性化が認められる。これまでMCLにおけるBCR活性化機序は未解明であったが、micro RNAであるmir-17~92 clusterの高発現がその原因となる可能性がある。本研究ではmir-17~92 clusterの網羅的標的探索を通じてMCL特異的なBCRシグナル活性化の分子メカニズムを解明し、その知見に基づいた新規BCRシグナル標的療法の開発を目的として研究をおこなっている。検討した5種類のMCL細胞株全てで、mir-17~92 cluster構成micro RNAの発現が正常Bリンパ球に比べて上昇していることを確認した。mir-17~92のアンチセンスオリゴを用いた阻害による標的RNAの定量PCRにてmir-17~92 clusterの標的分子の同定を試みたが、転写産物レベルでのアッセイは感度が低いことが明らかになった。またmir-17~92 clusterの発現調節因子としてMCLで過剰発現している転写因子であるSOX11の機能を調べるため、shRNAを用いたノックダウン実験を進めている。更にBCRシグナル阻害薬であるibrutinib耐性細胞株を作出するとともに、CRISPR screeningにより網羅的にIbrutinib耐性に関与する遺伝子を探索することで、多角的にMCLにおけるBCRシグナル活性化機序の解明を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の重要なステップであるmir-17~92 clusterの網羅的標的分子の同定において、当初はアンチセンスオリゴを用いたmiRNA阻害を介した標的RNAの探索を試みていたが、転写産物レベルでのアッセイ(マイクロアレイもしくは通常のRNA-Seq)は感度が低いことが明らかになった。そのためより直接的にmir-17~92 clusterの標的を探索するため、ビオチン標識miRNAを用いたPulldown-Seq技術による検証を行うこととした。現在、実験条件の検討作業はほぼ終了し、シーケンス実験の準備がほぼ整っている
Pulldown-Seqによるmir-17~92 clusterの標的同定実験とその解析を進めていく。BCRシグナル関連mir-17~92 cluster被制御分子として同定された分子に関し、MCL細胞株においてCRISPR/Cas9による遺伝子編集を実施し、細胞生物学的効果、BCRシグナル制御能について検討し、最も抗腫瘍効果の高い分子を治療標的候補分子として選択する。またMCL診断時保存検体において、免疫組織化学、real-time PCR、ウエスタンブロット等で発現、活性について解析し臨床的意義を明らかにする。上記で同定されたmir-17~92 clusterの標的分子それぞれについて、その制御によってBTK阻害剤耐性が克服できるか、ibrutinib耐性細胞株を用いて検証し、BTK阻害剤抵抗性克服能を有する標的分子を特定する。
当初予定していた旅費が不要となったため、次年度に繰り越して使用を予定している。
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Cancer Genomics Proteomics
巻: 17 ページ: 77-89
10.21873