研究課題/領域番号 |
19K17868
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
蒸野 寿紀 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (20646038)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 移植後後期腹水症 / 同種造血幹細胞移植 / 晩期合併症 / 慢性移植片対宿主病 / 肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群 / 血栓性微小血管障害 / バイオマーカー / 血管内皮細胞障害 |
研究実績の概要 |
当科ではこれまで同種造血幹細胞移植(同種移植)後、100日以降の後期に肝線維化を伴う難治性腹水貯留をきたす、「移植後後期腹水症」を経験してきた。移植後後期腹水症は、慢性移植片対宿主病(GVHD)や肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群(VOD/SOS)とは異なる病態と考えられ、1. 移植後100日以降に発症、2. 腹水優位の体液貯留、3. 慢性移植片対宿主病の所見に乏しい、4. 腹水貯留の明確な原因が不明、を共通項とする新たな疾患概念であると位置付けている。病理解剖例での肝線維化および血清ヒアルロン酸値高値から、肝線維化の病態が疑われるが、詳細は明らかではない。そこで、本研究では、(1) 疾患概念の確立、(2) 病理解剖組織検体と患者血清を用いた肝線維化機序の解明、(3) 診断に有用なバイオマーカー探索、を目的としている。特に同種移植後に腹水をきたす他の移植関連合併症(慢性肝移植片対宿主病、後期発症肝類洞閉塞症候群など)との異同を念頭に、臨床像と肝線維化機序の検討を行っている。これまで、肝線維化マーカーであるM2BPGi・オートタキシンを測定し、移植後後期腹水症患者ではオートタキシンと比較し、M2BPGiが高値となっていることが確認された。少数例での検討であり、これらのバイオマーカー間の差異がどのように病態を反映しているかを明らかにすることが、今後の研究の方向性と考えている。移植後後期腹水症発症患者の背景としては、同種移植前の前治療歴が多い患者が含また。移植後後期腹水症に伴う肝線維化が、化学療法による血管内皮細胞障害などの結果、惹起されたものである可能性も考えられる。また、移植後腹水症発症患者に限らず、同種移植患者全般、化学療法を要する血液疾患患者へも範囲を広げ検討する必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、移植後後期腹水症患者におけるM2BPGiとオートタキシンについて検討を行った。M2BPGiは3.14、3.48、10.83(基準値<1.00)といずれの症例でも高値を示した。一方、オートタキシンは0.439、0.547、0.955mg/L(基準値 男性<0.91mg/L、女性<1.27mg/L)と比較的低値を示した。M2BPGiは主として肝線維化を反映して上昇するが、オートタキシンは肝類洞内皮細胞障害を反映して上昇するとされている。移植後後期腹水症では、後期発症肝類洞閉塞症候群との鑑別が問題となるが、ヒアルロン酸値の測定に加え、M2BPGiとオートタキシンを同時に測定することで、移植後後期腹水症の診断の一助となる可能性があると考えられた。少数例の解析であったため、再現性の検討を行う予定であったが、昨年度は移植後後期腹水症の新規発症例がみられなかったため、新たな検討ができていないため、進捗状況としてはやや遅れていると判断した。そのため、同種移植患者全般に幅広く展開し、様々な合併症発症時におけるM2BPGi、オートタキシンなどの検討を行いたいと考えている。また、新たな診断バイオマーカーとして、末梢血中の血管内皮細胞の存在に着目している。昨年度は、マルチカラーフローサイトメトリーを用いた検出方法についての予備的検討を行った。具体的には、細胞ソーティングの条件検討、ソーティングされた細胞からの核酸抽出・qRT-PCRの系に関する検討を行った。さらに、末梢血中の血管内皮細胞(Blood Outgrowth Endothelial Cells:BOEC)の培養系についても検討を行っており、蛍光免疫染色などの細胞イメージングや網羅的遺伝子発現解析にも展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
移植後後期腹水症の疾患概念確立の観点から、当科における同種移植患者のデータベース構築を行う必要があると考えられるため、令和2年度はこれに取り組みたい。データベース構築により、移植源、移植前処置、HLA一致度、全身放射線照射の有無、経過中のウイルス感染の有無などについて検討を行いたい。また、慢性移植片対宿主病や肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群に関連するサイトカインの測定を行い、新たなバイオマーカー探索も行いたい。さらに、病理解剖症例の組織学的な検討をまだ行えていないため、病理組織検体を用いた、詳細な検討を行う必要があると考えている。具体的には、ドナー由来リンパ球浸潤などの有無や、微小血管閉塞の有無についての検討が必要と考えている。また、ウイルス性肝炎との差異、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変などとの組織学的な対比を通じ、移植後後期腹水症の病態を明らかにしたい。また、移植後後期腹水症患者の新規発症が減少している背景から、バイオマーカー探索は、同種移植患者に限らず、化学療法を要する血液疾患患者へも範囲を広げ検討することで、今後の研究推進が可能となると考えている。また、マルチカラーフローサイトメトリー・BOEC培養の系の確立を通じ、血管内皮細胞障害を背景とした同種移植後合併症の病態解析にも展開したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、移植後後期腹水症患者の新規発症がなかったため、予定していたバイオマーカー測定ができず、次年度使用額が生じた。また、病理解剖症例の組織学的な検討が遅れたのも一因である。令和2年度はこれらの課題に取り組むとともに、マルチカラーフローサイトメトリー・BOEC培養系の確立の推進、消耗品購入、出張旅費、成果発表に関連する諸経費、研究室の維持管理、事務経費などで全額使用予定である。
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