研究課題
骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms: MPN)は、JAK2V617F変異に代表される体細胞変異が、造血幹細胞に生じることで発症する造血器腫瘍である。近年、一部のMPN患者ではインターフェロン-α(IFN-α)により、分子生物学的寛解が得られることが明らかになってきた。しかし、なぜIFN-αによって分子生物学的寛解が得られるのか、すなわちドライバー遺伝子変異JAK2V617Fを有する腫瘍幹細胞がなぜ消滅するのか、その明確な機序は未だ明らかでない。そこで、本研究では、MPN患者由来iPS細胞で構築した試験管内MPN発症モデルを用いて、IFN-αの奏功する患者の特定やより有効な治療戦略の開発に必要な、IFN-αによる腫瘍幹細胞に対する抗腫瘍作用機序を解明することを目的とした。2019年度は、JAK2V617F変異を持つMPN患者からJAK2V617Fホモ型のiPS細胞、およびその機能解析を行い、JAK2V617Fを有するiPS細胞由来の血球前駆細胞では、MPN患者と同様に、EPO非存在下でも赤芽球系コロニーを形成することを示し、試験管内MPNモデルの構築に成功した。2020年度は、IFN-αがJAK2V617Fを有するiPS細胞に与える影響を検討した。前年度までに樹立したJAK2V617Fホモ型、ヘテロ型、野生型のiPS細胞を造血幹細胞に誘導した後、培養液にIFN-αを添加し、血球分化に対する評価を行った。JAK2V617Fを有するiPS細胞、野生型ともに、IFN-αによって、赤芽球系への分化が抑制されることを示した。しかし、JAK2V617Fを有するiPS細胞にでは、IFN-αに対する感受性が高い傾向を示したが、ホモ型、ヘテロ型での比較やその機序については、今後の検討が必要と考える。
3: やや遅れている
2020年度の目標は、JAK2V617F変異を有する患者由来のiPS細胞、および野生型のiPS細胞において、IFN-αの作用機序を明らかにすることであった。IFN-αによる抗腫瘍効果を再現することができ、血球分化に対する影響も確認できたが、COVID-19の影響により研究時間の短縮や、物品の確保に困難を強いられ、機序の明確な解明にはまだ時間を要することから、やや遅れていると考える。
iPS細胞に対するIFN-αの作用機序をより明確に解明する。具体的には、細胞増殖やアポトーシス誘導、血球分化についてのみならず、赤芽球や巨核球の分化に重要な役割を果たす転写因子についてmRNAや蛋白質の発現誘導が、腫瘍幹細胞特異的に生じるかを明らかにする。
COVID-19の流行により、研究時間や物品の確保が困難であり、次年度へ持ち越した研究があることから、経費の一部を次年度に使用予定とした。経費はプラスチック用品やiPS細胞の培地などの消耗品に用いる予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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