研究課題
Thioredoxin interacting protein (TXNIP)は肝がん、乳がん、甲状腺がんなど様々ながんで発現低下が報告されている腫瘍抑制遺伝子である。AMLにおいてもエピジェネティクス異常により発現が低下しているが、白血病発症との関連性は不明である。これまでの研究により、TXNIPはMixed-lineage leukemia (MLL)遺伝子再構成を伴うAMLにおいて、最も発現低下していることを発見した。MLL遺伝子再構成陽性AML細胞株MOLM-13およびMV4-11にテトラサイクリン誘導性TXNIP過剰発現ベクターを導入したところ、両細胞株において細胞増殖が有意に抑制された。TXNIP過剰発現によりアポトーシス誘導は認められなかったが、細胞膜の透過性亢進を示唆する知見が得られた。またTXNIP過剰発現によりオートファジー誘導因子であるBeclin-1の発現が増加し、電子顕微鏡観察においてオートファゴソームの形成が認められた。TXNIPはグルコースの取り込みを抑制することが報告されているため、グルコース飢餓誘導性オートファジーが生じているのではないかと考えた。TXNIP過剰発現AML細胞株を高濃度グルコース培地で培養したところ、短期の培養では細胞増殖抑制がレスキューされたが、長期の培養では再び細胞増殖が有意に抑制された。またTXNIP誘導と組み合わせることで効果を発揮する薬剤を探索したところ、TXNIPはBcl-2 family阻害剤であるABT-263のアポトーシス誘導作用を増強することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究の実施状況として、TXNIP過剰発現によりオートファジー誘導因子であるBeclin-1の増加を発見した。またTXNIPは既存のBcl-2 family阻害剤ABT-263のアポトーシス誘導作用を増強することを明らかにした。ABT-263はリンパ系悪性腫瘍において既に臨床試験が行われており、今後TXNIP誘導と組み合わせることで、より効果的な新規治療戦略の構築を期待できる。
TXNIPの細胞増殖抑制機構の一つとしてグルコースの取り込み抑制が示唆されたが、グルコースの添加はTXNIPによる細胞増殖抑制を完全にはレスキューできなかった。以上の結果よりTXNIPによる細胞増殖抑制には複数の機構が存在すると考える。これらを明らかにすることを目的とし、TXNIP過剰発現による転写の変化やリン酸化タンパク質の変化について、アレイ等を用いて解析する。さらにTXNIP過剰発現AML細胞株においてABT-263を添加した際の転写の変化やリン酸化タンパク質の変化についても検討する。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、一時実験を中断したため、使用する試薬等の量が予定より少なくなった。次年度はマイクロアレイや抗体アレイによる網羅的解析を行う。TXNIP過剰発現AML細胞株においてABT-263を組み合わせた際の遺伝子変化を調べる。
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