研究実績の概要 |
ADAMTS13は血小板血栓形成能を直接仲介する血漿タンパク質von Willebrand factorを切断することで過剰な血小板凝集を抑制する。これまで、ADAMTS13の生化学的・遺伝的解析は進んでいるが、その遺伝子発現調節についてはよくわかっていない。ADAMTS13は肝臓内の肝星細胞で高発現しているので、肝星細胞株(Lx2,TWNT1)を用いて、どのように遺伝子発現が調節されているかを調べた。 肝臓内の肝星細胞には静止型と活性型の状態があり、一般的に肝臓が損傷を負うと肝星細胞は静止型から活性型に移行し、肝星細胞はコラーゲンを分泌し肝硬変の原因となる。ADAMTS13は肝臓の状態が悪化すると血中のADAMTS13量が減少するという報告があることから、ADAMTS13の発現には肝星細胞の状態が影響する。 Lx2の状態は肝星細胞が活性化した状態と似ており、活性型に近いLx2ではADAMTS13の発現は低くなっている可能性がある。これまで、線維化した肝臓の回復させる薬の開発は多数行われており、その候補の一つにPhosphodiesterase(PDE)阻害剤であるIsobutylmethylxanthine(IBMX)がある。Lx2の培養液にIBMXを加えるとADAMTS13 mRNAが上昇し、また、TWNT1でも促進する。一方で、ADAMTS13が発現しているヒト肝ガン細胞株HepG2では、IBMXによる促進効果は見られなかった。このことは肝星細胞株での状態がADAMTS13の遺伝子発現調節に影響していた。PDE阻害剤であるIBMXは標的とするPDEの種類が多く、ほぼすべてのPDEに対してその活性を抑制する。IBMXはcAMPとcGMPの両方を分解するそれぞれのPDEの活性を抑制する。Lx2の培養液に直接cAMPとcGMPを添加することで、cAMPあるいはcGMPのどちらがADAMTS13 mRNAの転写を上昇させるかどうかを調べた。その結果、cAMPがLx2内のADAMTS13 mRNAを上昇させた。これらの結果は、今後、肝臓の特に肝星細胞内でADAMTS13がどのように遺伝子発現が調節されているかを調べるために重要である。
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