本研究はマウス、細胞、気管支喘息(BA)患者検体を用いて、プロトン感知性受容体の一つであるT-cell death-associated gene 8(TDAG8)がBAに関与する機序を解析し、BAの新たな治療標的としてのTDAG8の可能性を明確にすることを目的としている。①BAモデルマウスにおけるTDAG8の機能を明らかにすること、②気道上皮細胞の粘液産生におけるTDAG8の機能を明らかにすること、③血中TDAG8発現とBA患者における症状、重症度、治療効果、増悪との関連性を明らかにすることを予定した。 2019年度は、BAマウスにおいて、TDAG8遺伝子改変マウスと野生型マウスの比較を行った。また、BA患者の血中TDAG8発現と症状および重症度との関連性を解析した。血中TDAG8発現は、気管支喘息の症状スコアであるAsthma control test(ACT)と負の相関を示すことを明らかにした。気道上皮細胞の粘液産生におけるTDAG8の関与を明らかにする実験を並行して行った。気道上皮細胞株においては、培養液が低pH環境の場合にPhorbol MyristateAcetate(PMA)刺激によるMUC5AC産生は亢進した。また、この現象はTDAG8をノックダウンすることで抑制された。 2020年は血中TDAG8発現とBA患者における病勢の増悪との関連性を評価した。血中TDAG8は過去の増悪を経験しなかった群では増悪を経験した群と比較して有意に高かった。また、細胞実験においては、気道上皮細胞においてPMA刺激により産生されたMUC5ACは、TDAG8-cAMPのシグナルに関与していることを証明した。 2021年においては、MUC5AC産生に関与するとされているIL-13とTGFαとはTDAG8発現に影響を与えないことを確認した。
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