研究課題
喘息の有病率や死亡率は男性患者と比べて女性患者において高い。加えて、救急外来受診後の喘息再発率は、早期から男性患者より女性患者において高い。このような喘息病態の性差の背景には、男性患者より女性患者において亢進している2型獲得免疫応答ならびに2型自然免疫応答が存在する。本研究ではこれらの2型免疫応答の惹起に中心的な役割をはたす気道上皮基底幹細胞に着目した。ダニアレルゲン誘発型喘息モデルマウスにおいて、オスマウスと比較してメスマウスでは、喘息反応(気道過敏性、気管支肺胞洗浄液中好酸球数、気道粘液産生)が亢進していた。肺内Th2サイトカイン量は、抗原吸入早期にオスマウスよりメスマウスにおいて上昇しており、これらの上昇には2型自然免疫応答または2型記憶T細胞の関与が示唆された。血清中ダニアレルゲン特異的IgG1産生量はオスマウスよりメスマウスにおいて増加していた一方で、血清中ダニ抗原特異的IgE産生量は、オスマウスとメスマウスともにわずかであった。気道上皮組織由来サイトカイン量は、IL-33産生がオスマウスよりメスマウスにおいて増加していた一方で、TSLPならびにIL-25産生量に性差は認められなかった。これまで報告のある特異的表面分子マーカーを用いて、気道上皮基底幹細胞を採取し、IL-33産生量の性差と、気道上皮基底幹細胞以外の細胞とのサイトカイン産生量の差異について検討した。本年度に検討することができた採取タイミングでは、明確な差が認められなかった。
3: やや遅れている
本年度の研究を遂行する中において、気道上皮基底幹細胞の分取に用いる適切な表面分子マーカーについて検討する必要性が生じ、至適な採取方法を検討する必要が生じた。加えて、気道上皮組織とは別に、気道上皮基底幹細胞におけるサイトカイン産生量の経時的変化を検討する必要が生じた。そのため、当初本年度に予定した気道上皮基底幹細胞と免疫細胞との共培養や、気道上皮基底幹細胞の分化に対する性ホルモンの影響をin vitroで解析する実験は、引き続き次年度において解析を行う予定である。次年度においてはさらに、気道上皮基底幹細胞から産生されるサイトカインやケモカインの性差が、喘息病態ならびに喘息免疫応答の性差に与える影響について解析を加える予定である。
In vitroの解析に供する気道上皮細胞基底幹細胞を採取するために、サイトカイン産生量の経時的変化ならびに、適切な分取マーカーについて既報を参考に検討し、加えて、エストロゲンやテストステロンなどの性ホルモン受容体発現量を確認する。そのうえで、気道上皮基底幹細胞の分化やサイトカイン産生性における性ホルモンの影響ならびに、共培養条件下における樹状細胞や自然免疫リンパ球の機能(サイトカイン産生性や抗原提示能など)における気道上皮基底幹細胞の役割を検討する。これらの方策により、in vitroでの解析を円滑に行うことができると考えている。加えて、年度後半では、気道上皮基底幹細胞が肺における喘息免疫応答と喘息病態重症化の性差に及ぼす影響を解析し、気道上皮基底幹細胞の制御による性依存的喘息増悪病態の抑制を試みる。
本年度の研究を遂行するなかで、気道上皮組織由来サイトカインならびにケモカインの解析を行うにあたり、適切な解析タイミングを検討する必要性が生じた。加えて、今後の解析を円滑に行うために、気道上皮基底幹細胞分取のための適切な表面分子マーカーを検討し、かつ適切なタイミングで分取する必要性が生じた。したがって当初本年度に解析を行う予定であった気道上皮基底幹細胞からのサイトカイン産生と、気道上皮基底幹細胞が自然免疫リンパ球並びに樹状細胞機能に与える影響の解析の一部を次年度に繰り越して実施する。これらの理由から、本年度使用予定であった研究費の一部を次年度に繰り越して使用する予定である。
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International Archives of Allergy and Immunology
巻: Jan 25 ページ: 1~11
10.1159/000512591
巻: 181 ページ: 651~664
10.1159/000508535
https://www.tohoku-mpu.ac.jp/pharmacy/lab/lp_c03/