研究課題
ヒストン脱メチル化酵素UTXは、メチル化されたヒストンH3の27番目のリジン残基に対する脱メチル化やCOMPASS複合体の構成因子として機能するエピジェネティック因子である。UTXに先天的な機能欠失型変異を有する歌舞伎症候群の患者は、高頻度に自己免疫疾患を発症することから、免疫細胞におけるUTXの機能欠失が自己免疫疾患発症に寄与することが予想される。我々の作製したB細胞特異的UTXコンディショナルノックアウト (cKO) マウスのこれまでの解析からは、血清中の一部のクラスの抗体量の上昇、骨髄中の自己寛容前の未熟B細胞の増加、自己免疫疾患との関連が疑われる辺縁帯B細胞や腹腔内B-1細胞の増加や分化異常が認められている。血清中の抗体量や辺縁帯B細胞、腹腔内B-1細胞などに表現型が認められる自己免疫疾患様の種々の遺伝子改変マウスでは、加齢に従い表現型が強化されることから、B細胞特異的UTX cKO マウスの飼育を継続し1年半から2年の加齢をすすめた。これらの加齢マウスは幼齢マウスでは認められなかった脾臓細胞の顕著な増加と腹腔内細胞の減少傾向が観察された。このうち脾臓細胞の増加は加齢オスマウスでは認められなかったのに対し、腹腔内細胞の減少傾向は雌雄ともに認められた。UTXはX染色体上に位置しており、Y染色体には脱メチル化活性を欠いたUTYが存在する。このことから、脾臓細胞の増加は、UTXの脱メチル化活性依存的な機能の欠失、腹腔内細胞の減少は脱メチル化活性非依存的な機能の欠失がそれぞれ主要な原因であると推察された。実際にCOMPASS複合体の構成因子であるPTIP cKOマウスではUTX cKOマウスに類似した腹腔内B-1細胞の分化異常が認められた。
3: やや遅れている
本年度は加齢マウスの解析を中心に実施し、これまでの自己免疫疾患様の遺伝子改変マウスと同様に免疫細胞に関する表現型が加齢に伴い増強している傾向が認められた。動物飼育施設と共同利用機器施設の施設移転や緊急事態宣言などの社会状況の影響から遺伝子改変マウスの維持数や解析に制限があり、時間のかかる加齢マウスの飼育と解析を優先的に行った。
引き続き薬剤負荷による自己免疫疾患モデルを用いて、自己免疫疾患の病態に対するB細胞特異的UTX欠失の影響を評価する。また異常の見られた脾臓細胞や腹腔細胞を対象にエピゲノムやトランスクリプトームなどの網羅的解析を予定している。
緊急事態宣言などの社会状況の悪化や動物飼育施設や共同利用施設の移転が重なり、実験や動物飼育に困難が生じ、研究計画に遅れが生じたため。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Blood
巻: 137 ページ: 908~922
10.1182/blood.2019001044