研究課題
ヒストン脱メチル化酵素UTXは、C末端のJmjCドメインを介したメチル化されたヒストンH3の脱メチル化や、N末端のTPRドメインを介したCompass-like複合体の構成因子として機能するエピジェネティック因子である。UTXの先天的な機能欠失が原因である歌舞伎症候群の患者には高頻度に自己免疫疾患が認められることから、UTXは免疫系維持に重要な役割を担うことが推察される。これまでにB細胞特異的UTX欠失マウスでは、自己免疫疾患への関与が示唆されている脾臓辺縁帯B細胞や腹腔内B-1細胞の増加といった表現型を認めている。これらの表現型に対してUTXのどの領域が重要な役割を担うのかを検証する目的で、研究をすすめた。TPRドメインを欠失させた変異体とJmjCドメインのアミノ酸置換により脱メチル化活性を失活させた変異体を作製し、これらの変異体をUTX欠失細胞にレトロウィルスを用いて導入、移植することで各表現型の変化を検証することを計画した。各種変異体を作製後、培養細胞を用いた予備検討で、他の研究グループの報告したTPRドメイン欠失変異体の挙動と我々の作製した変異体の局在挙動などが異なることに気づき(【現在までの進行状況】参考)、詳細な検討を行なった結果、その原因は用いたUTXのスプライシングバリアントの違いによることを明らかとし、未報告であったUTXのNLSを実験的に同定した。現在、B細胞を中心とした造血細胞におけるUTXのスプライシングバリアント毎の発現量比較を検討中である。またRNA-seqやChIP-seqなどのドライデータ解析を行い、UTX欠失によるB-1細胞増加の分子機序として、転写因子SPI1の脱制御を候補の1つに考え、現在UTXとの相互作用に関する生化学的な検討を進めている。
4: 遅れている
B細胞特異的なUTX欠失マウスに認められる辺縁帯B細胞やB-1細胞の増加に対する、UTX上の責任領域を同定することを目的に、TPR欠失変異体と脱メチル化活性失活変異体を作製した。培養細胞を用いた予備検討で各変異体の、タンパク質発現、機能欠損(脱メチル化活性減衰、Compass-like複合体との結合障害)、核局在などを確認した。しかし別研究グループの報告したTPR欠失変異体は核局在に障害が起こることが報告されていることに気づいたことで、我々の作製した変異体と別グループの作製した変異体の比較検討を行う必要が生じた。比較と検討の結果用いたスプライシングバリアントの違いが、変異体の挙動の違いの原因であることを突き止め、さらに検証をすすめ、核内タンパク質でありながら未同定であったUTXのNLSを突き止め、アミノ酸置換変異体を用いて実験的に証明した。一昨年度からの新型コロナの影響による計画の遅れを取り戻せていないことに加え、このようなスプライシングバリアント毎の機能差は、当初考慮に入れておらず、実験系の検討に想定よりに時間を要した結果、全体の計画に遅れが生じた。
引き続きB細部系列におけるスプライシングバリアントの発現比較を進め、発現が優勢なスプライシングバリアントの各変異体を用いた、移植実験により表現型の責任領域の実験的な証明を試みる。また表現型の主要な原因候補であるSPI1とUTXの相互作用の検証を生化学的手法やChIP-seqなどにより進める。
一昨年度からの新型コロナの影響による計画の遅れを取り戻せていないことに加え、このようなスプライシングバリアント毎の機能差は、当初考慮に入れておらず、実験系の検討に想定よりに時間を要した結果、全体の計画に遅れが生じた。また、今年度進めた実験系の検討などに必要な試薬は、これまでに購入した既存の試薬で代替することで実施可能であることがわかり、当初予定した動物を用いた実験系用の経費や新たな試薬の購入を今年度は行わなかった。
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