本研究では、ノロウイルス (NoV) をモデルとした「ウイルス横断的な創薬研究」の基盤構築を目的とした。NoVのopen reading frame 1 (ORF1) にコードされたタンパク質の発現機構はHIV-1と類似しており、一つのアミノ酸鎖に繋がったpolyproteinとして発現された後、protease (Pro) によって切断 (プロセッシング) されることでウイルスタンパク質として機能する。また、NoVのProは新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 由来proteaseと同じく、3C-like protease (3CL-Pro) に分類される。新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) はヒト-ヒト間で高い感染性を発揮し、半年の間に世界規模のパンデミックとなった。健康面だけでなく経済面でも大きな問題となっており早期の終息が必須である。パンデミック下における社会的な必要性、緊急性を考慮し、NoVとSARS-CoV-2の共通点に着目した創薬研究を新たに追加した。上述の様に、SARS-CoV-2はNoVと同様に3CL-Proに分類されるprotease (Mpro) によるプロセッシングが複製過程で重要となる。そこで、Mproに着目した薬剤開発を実施した。本年度は、国立国際医療研究センターの満屋裕明等が開発した新規化合物の結晶構造解析を行い、新規化合物がMproの活性中心近傍のシステイン残基と共有結合を形成していることを明らかにした (Hattori S. et al. Nat Commun. 2021) 。また、SARS-CoV-2に感染性を示すVeroE6/TMPRSS2細胞を用いて薬剤スクリーニング系の構築を行った。これらの成果は、現在、世界中で問題となっているSARS-CoV-2だけでなくNoVに対する新規protease阻害剤開発に資する。
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