研究課題/領域番号 |
19K17922
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
橋本 佑輔 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40649381)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バンコマイシン耐性 / 線状プラスミド / 腸球菌 / 二成分制御系 / プラスミド / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は代表的な日和見菌であり、治療薬オプションの少なさから全世界的に問題となっている薬剤耐性菌である。国内では諸外国と比較しVRE感染症の頻度は低いものの、散発的に院内アウトブレイクが報告されている。 腸球菌におけるバンコマイシン耐性は二成分制御系(VanR/VanS)により転写調整が行われ、バンコマイシン存在下でのみ耐性遺伝子群の発現が起こるためにFitnessを低下させないとされている。またこれら二成分制御系を含むバンコマイシン耐性遺伝子群の多くが接合伝達性プラスミドや接合伝達性トランスポゾンに存在しており、ヒトの腸管内にて水平伝播が容易に起こりうる。 本研究は腸球菌のバンコマイシン耐性遺伝子群の新規転写調節因子探索を目的としている。我々が報告したバンコマイシン低度耐性腸球菌の耐性復帰株では二成分制御系への変異が存在しないにも関わらずバンコマイシン耐性遺伝子群の転写量が増加していることが明らかにされており、腸球菌の保有する二成分制御系の関与を疑い、Nisin誘導発現ベクターへのResponse regulatorのクローニングを実施した。クローニングした15個のResponse regulatorに関してバンコマイシンMIC値を指標にバンコマイシン耐性への寄与を確認するも、残念ながらMIC値を高めるresponse regulatorは存在しなかった。 並行実験では、令和元年度に論文報告した腸球菌初の線状プラスミド(pELF1)に関する実験を行っている。令和二年度では、pELF1に極めて類似の構造を持つ線状プラスミド(pELF2)保有株が関西の医療機関でVREアウトブレイクを起こしたことを分子疫学解析で明らかとした。現在は医療現場への影響も大きく、新規性の極めて高いこの線状プラスミドに関し更なる分子生物学、分子疫学解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸球菌(E. faecalis)に保存されている15個のresponse regulatorをクローニングし、Nisin存在下でのバンコマイシン耐性への寄与を、バンコマイシンMIC値を指標に確認するも関与は否定的な結果であった。 並行している研究では、令和元年度にVanA/VanMバンコマイシン耐性遺伝子群を保有する線状プラスミド(pELF1)を発見、論文報告し、更に令和二年度には類似構造をもつVanA耐性遺伝子群保有線状プラスミド(pELF2)が関西の医療機関にてアウトブレイクを起こしていることを分子疫学解析より明らかにし論文報告を行った。本事例では、患者間の水平伝播のほか、別の腸球菌種へのinterspecies-transmissionも起こしており、in vitroの研究結果とも合致し実臨床上も重要なplasmidであることが確認された。 主研究には課題がみられるものの、並行している研究課題に関しても新規性、臨床上の重要性が高いと考えられ、更に分子生物学的解析、分子疫学的解析を推し進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.腸球菌の二成分制御系とバンコマイシンを含む薬剤耐性に関する網羅的解析 pMSP3535(Nisin誘導発現ベクター)を用いた全てのresponse regulator過剰発現株での解析結果は、現時点ではnegative dataとなっている。今後再度バイオインフォマティクス解析を行い他の因子についての検討を行っていく。 2.腸球菌の線状プラスミドに関する分子疫学・分子生物学的解析 腸球菌の線状プラスミドについて、国内臨床分離株を中心とした分子疫学的解析を現在実施している。同時に、本プラスミドの宿主(腸球菌)への影響をRNA-seq、growth curveなどで解析しているところである。 3. vanD耐性遺伝子群保有genomic islandに関する分子疫学解析 国内医療機関で分離されたVanD型VRE、そのgenomic islandに関する分子疫学解析を上記実験と共に行っている。その宿主領域、genomic islandの遺伝学的解析を行う。
1の研究には課題がみられるものの、並行している複数の研究に関しても精力的に行い、社会に還元できる成果報告を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた実験進捗に差異が生じ物品購入を当該年度行わなかったこと、並びにコロナ禍のため多くの学会参加がリモートとなり旅費が不要となった為に差額が生じた。本年度はWhole genome sequencing解析などを積極的に行い、更なる研究発展に努める予定である。
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