バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は治療薬の少なさから全世界的に問題となっている薬剤耐性菌である。本研究は腸球菌のバンコマイシン耐性遺伝子群の新規転写調節因子探索を目的としている。過去の研究結果より推察された腸球菌の保有する他の二成分制御系とバンコマイシン耐性遺伝子群の二成分制御系との間のクロストークに関し、Nisin誘導発現ベクターを利用して探索を行ったが、残念ながらバンコマイシン耐性度を高める二成分制御系(クロストーク)は確認されずnegative dataであった。 並行実験1では、令和元年度に論文報告した腸球菌初の線状プラスミド(pELF1)に関する解析を継続した。国内医療機関にて分離された腸球菌約1700株に関して線状プラスミドの保有調査を実施し、16株の線状プラスミド保有腸球菌を検出した。すべての線状プラスミド保有株に関して全ゲノムシークエンス(WGS)解析を実施したところ、線状プラスミドの構造は強固に保たれており、その多様性はMobile genetic elementの挿入により生み出されていた。データベース検索より線状プラスミドは全世界に広く存在することが確認され、これらを加えた全32株の線状プラスミド保有腸球菌はすべてEnterococcus faeciumであり、染色体コアゲノム比較解析から多剤耐性傾向が示されているclinical strainのcladeに属していることを明らかとした。 並行実験2では、VanD型バンコマイシン耐性遺伝子群が存在するgenomic islandの分子疫学解析を実施した。腸管内に存在する嫌気性菌はVanD型VREの保有するgenomic islandと極めて類似性の高いgenomic islandを保有していることをWGSデータより明らかとし、腸管内における遺伝子水平伝播の可能性を明らかとした。
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