肺炎球菌ワクチンが導入されて以降、生命予後に直結するIPD発症率の減少は明らかになったが、肺炎球菌肺炎自体の減少に関しては期待されたほどの効果が見られていない。肺炎の発症抑制には、PCV13およびPPSV23がターゲットとしている莢膜以外の、肺炎球菌のライフサイクルにおける新規ワクチンターゲットの発見が急務と考えられる。 本研究では、新規の肺炎発症マウスモデル確立をめざすため、8週齢のC57BL/6Jマウスを用いて経鼻的に3-5日で肺炎を自然発症しうるモデルの作製を進めている。さらに、採取年度においてはトランスミッションの解析に必要なモデルマウスの確立も同時に進めており、仔マウスを用いたトランスミッションの再現に成功している。このモデルを用いて新規ワクチンの効果評価を行う予定である。トランスミッションから保菌の成立、肺炎発症までの時間的経過を順に追跡可能な動物モデルの存在は、そのプロセスを詳細に分析するためのキーとなる。 また、動物実験がCOVID-19の影響で滞ったことを受け、本研究課題に直接関連する肺炎球菌のトランスミッションについてのレビューをFrontiers in Cellular and Infection Microbiologyに発表している。本レビューには科学研究費助成事業による助成により投稿したことを明記している。 現在、生理的な状態での肺炎発症をシミュレートするための肺炎発症マウスモデルの作製途中であるが、このタイトレーションにはある程度の時間が必要なことが見込まれる。この動物モデルが開発されれば、肺炎の重症化以前のステップに対する治療介入を検討できるツールとなる。これまではっきりとしていなかった肺炎発症機序の解明に不可欠なモデルであり、今後の新規ワクチンなどの予防法の新たな確立も期待できる。
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