研究課題/領域番号 |
19K17931
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
楢原 知里 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (10794258)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルテミシニン治療 / QUININE治療 / マラリア薬剤耐性遺伝子 / P.falciparum / G6PD |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タイ王国におけるアルテミシニン治療が及ぼすマラリア側の影響とヒト側への影響を調べることである。具体的にはマラリア側ではアルテミシニン治療により耐性が誘導されると言われているK13プロモーター領域の遺伝子解析、ヒト側では赤血球の代謝や形状に関与している遺伝子(G6PD遺伝子、thalassemia遺伝子、ヘモグロビン異常遺伝子)、薬物代謝に関与している遺伝子(シトクロムP450の関連遺伝子)などの遺伝子がアルテミシニン治療にどのように影響するか遺伝的相関を明らかにする事である。 令和元年度はタイ王国でP.falciparum に感染し、アルテミシニン併用療法(ART)を受けた患者サンプルを回収する事に重点を置いていた。しかし、タイ王国ではP.falciparumの感染患者数が激減していることより、アルテミシニン併用療法を受けた患者のみのサンプルを回収する事は非常に困難であった。そこで、アルテミシニン治療を受けた患者のサンプルの回収と並行して、他の抗マラリア薬の治療(QUININE)を受けた患者のサンプルを回収し、アルテミシニン治療と他の抗マラリア薬の治療を受けた患者を比較することで、本研究の目的を明らかにする事とした。 これまでに合計371名のサンプルを臨床データと共に回収した。その後サンプルのDNAを抽出、マラリア側はK13プロモーター領域遺伝子に加え、マルチ薬剤耐性遺伝子(pfmdr1,pfcrt)のシークエンス解析を行う為、ターゲット領域をPCR法にて増幅中である。ヒト側の標的遺伝子も同様にPCR法を用いてターゲット遺伝子を増幅後、RFLP法あるいはシークエンス解析法を用いて変異の確認を行なっている。特にG6PD遺伝子に関しては、実験のデータを再度確認している段階であり論文投稿用の原稿も作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに合計で371名のサンプル数を臨床データと共に回収した。内訳として、アルテミシニン治療を受けた患者数が171名、QUININE治療を受けた患者数が200名であった。その他臨床データとして、性別(男性261名、女性110名)、年齢は3-60歳、サンプル回収場所は2カ所(MaesotおよびTak)である。 現在はタイ王国でのサンプル回収を終了し、DNA抽出を完了させている。マラリア側のK13プロモーター領域の点変異およびマルチ薬剤耐性遺伝子(pfmdr1,pfcrt)の解析を目的として、現在はPCR法を用いて標的遺伝子を増幅中である。その後シークエンス配列の確認を行う。 ヒト側の標的遺伝子の遺伝子解析は、現在3種類の標的遺伝子(G6PD遺伝子、thalassemia遺伝子、ヘモグロビン異常遺伝子)、および薬物代謝に関与している遺伝子(シトクロムP450関連遺伝子)の4種類である。現在はプライマーが手元にあるG6PDの遺伝子解析を行っている。方法はPCR-RFLP法を用いた。G6PD遺伝子の解析により得られている結果として、タイ王国における11種類の中で多くの変異遺伝子が確認された変異は、Chinese-4 10%, Viangchan 7.3%, Mahidol 4.3%であった。これまでの結果ではアルテミシニン治療あるいはQUININE治療と各G6PD変異遺伝子の相関は確認されていないが、現在結果を再確認中である 以上のように、アルテミシニン治療が及ぼすヒト側への影響を明らかにするためのデータを蓄積中であり、本研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度の研究推進方策として、マラリア側ではアルテミシニン治療におけるK13プロモーター領域の点変異およびマルチ薬剤耐性遺伝子(pfmdr1,pfcrt)をPCR法を用いてターゲット遺伝子を増幅した後、シークエンス解析を行う事でアルテミシニン薬剤が誘導した点変異あるいはQUININE薬剤が誘導した変異を明らかにする。 ヒト側が持つ遺伝子変異の解析としては、標的遺伝子のG6PD遺伝子、thalassemia遺伝子、ヘモグロビン遺伝子、シトクロムP450遺伝子の変異による薬剤代謝の遺伝子変異をPCR-RFLP法あるいはシークエンス法を用いて解析する。G6PD遺伝子はRFLP法を用い、その他の遺伝子はPCR法あるいはシークエンス配列の確認を中心とした実験方法を行う。 さらに今後、新たなターゲット遺伝子が候補に上がった場合、プライマーを設計後、PCR法を用いて増幅し各遺伝子の遺伝子配列をRFLP法あるいはシークエンス法を用いて確認する。現在、追加予定の有力なヒト側の遺伝子は(ATP2B4)である。 それぞれの遺伝子変異を明らかにした後、それぞれの遺伝子変異とアルテミシニン治療またはQUININE治療とに相関があるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、タイ王国でP.falciparumに感染し、アルテミシニン併用療法(ART)を受けた患者サンプルを回収する事に重点を置いていたが、タイ王国でP.falciparumの感染患者数が激減しており、令和元年度中に予定していたサンプル数を得るのは困難であった。そこで、サンプルの回収期間の延長をする事とした。また、令和二年度の研究実施計画を行うために必要な予備実験を令和元年度に行う事とし、予備実験を早めに始める事で今後の研究実施計画をさらに円滑に進めることができると考え、前年度前倒し支払い請求をしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により予定していた国際学会への参加が延期となったため次年度使用が生じた。 今後の使用計画として令和元年度に計上した前倒し金により実験に必要な試薬はほどんど購入済である。また令和二年度の助成金と合算してシークエンス解析を外注で行う予定である。
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