研究課題/領域番号 |
19K17942
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
伊藤 洋志 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (20362387)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 好中球 / オートファジー / 感染症 / 炎症 / 自然免疫 / IL-8 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
好中球は旺盛な食作用と強力な殺菌作用を有し、主として細菌感染に対する自然免疫系において中心的な役割を担っている。しかし、好中球が過剰に働くと自らの組織や臓器の傷害を引き起こす。よって、好中球機能は生体内の環境に応じた迅速かつ厳密な制御下に置かれる必要がある。そのためには、好中球自身に由来する成分によるオートクラインによる作用機構が合理的である。 我々はこれまでに、好中球の食作用が亢進した後にオートファジーが誘導されることを明らかにした。その際、細胞質に生じたオートファゴソームに、貪食した細菌の他、細胞内小器官のひとつであるミトコンドリアがしばしば内包されることを確認した。感染巣に集積した好中球は食殺菌作用を果たした後に細胞死に至る。この時、自然免疫系を活性化させる内在性分子であるDAMPs(Damage-associated molecular patterns)のひとつとしてミトコンドリアに由来する分子の細胞外放出が考えられる。そこで2022年度は主に、ミトコンドリアタンパク質由来の4種の合成ペプチドを用い、健常人末梢血から分離した好中球の種々機能の発現について検討を行った。 その結果、好中球を局所に動員(遊走)させる走化性因子のひとつであるIL-8の培養上清中濃度が4種全ての合成ペプチドで有意に上昇した。また、3種の合成ペプチドで好中球の殺菌作用に重要なO2-の放出量が有意に増大した。また、1種の合成ペプチドで好中球の遊走が誘導された。いずれも好中球機能の発現を誘導する濃度は、細菌由来の好中球活性化ペプチドであるfMLFと比較して高濃度域であったものの、好中球のミトコンドリア由来の成分が新たに感染巣に動員される好中球に対して作用を及ぼす可能性が考えられる。このようなオートクラインによる作用機構にオートファジーが関与する可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ヒト末梢血から採取した好中球を用いる実験を行うため、健常人の協力を得て行う「医学系研究」を所属機関の倫理委員会に申請し、承認を得ている。2022年度は末梢血提供の協力者との実験日程の調整等の問題により、計画より実験回数が限定された。また、当初計画にはなかったが研究の進捗課程で得た新たな着想による実験を始めることとなった。これらを踏まえ、進捗状況を「遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
好中球に由来する成分が好中球の諸機能を誘導し、その作用はオートファジー阻害によって変化することを2021年度までに示した。細胞死によって核酸やタンパク質が放出され、自然免疫系を活性化させて炎症反応を引き起こすことが知られている。2022年度は、このような内在性分子のひとつとしてミトコンドリアタンパク質由来のペプチドについて検討を行った結果、好中球機能を誘導することを確認した。 これを受けて、2023年度はまず好中球から放出されるミトコンドリアタンパク質由来ペプチドを定量するための実験系を確立したい。そして、オートファジーの誘導や阻害によるミトコンドリアタンパク質由来ペプチドの生成に及ぼす影響についての評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に行った実験系のいくつかは結果的に2021年度までに購入済の試薬等で遂行できた。また「現在までの進捗状況」で述べた通り、本研究の中心となるヒト好中球を用いた実験回数が計画より限定されたため、その分の経費の執行が抑制された。2023年度は実験回数の増加を予定し、また2022年度までにはなかった新たな実験系を行うため、新規購入する試薬等の購入が必要となり、これらの経費に充てる。
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