研究課題/領域番号 |
19K17943
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
後川 潤 川崎医科大学, 医学部, 助教 (00299182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 香港型 / N型糖鎖 / 糖鎖プロファイル / 抗原性多様化 / 抗原相同性 / ワクチン / リバースジェネティクス |
研究実績の概要 |
インフルエンザは人々の健康被害や社会活動に著しく影響する感染症であり、その病原体の一つである香港型(A/H3N2亜型)ウイルスは抗原性が変わりやすい性質をもつ。ウイルス表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)は国内の予防接種に用いられるスプリットワクチンの主要抗原タンパク質であるが、香港型のHAはとりわけ遺伝子変異による抗原性多様化が生じ易く、ワクチン株の選定や製造を困難にしている。HAの抗原性多様化を生む要因の一つにHA主要抗原部位(major antigenic site: MAS)の遺伝子変異によるアスパラギン(N)結合型糖鎖(N-glycan)の付加・欠損が挙げられる。本研究は、香港型ウイルスのHA-MASに潜在する「N-glycanの付加および欠損による抗原性多様化」がウイルス感染に対する宿主応答やエピデミックな流行に及ぼす意義を明らかにすることを目的としている。本年度は以下の成績を得た。①2019/20シーズンに国内で検出された香港型ウイルスのHA塩基配列を分析し、N型糖鎖のプロファイル(N-glycan数と付加位置)に基づいて分類した。②HA-MASの糖鎖プロファイルが異なる3タイプのウイルスに分けられた。これらのウイルスのHA遺伝子をmutagenesis法で作製し、逆遺伝子学的手法を用いてWSN株を骨格とした組換えウイルス(H3N2様WSNウイルス)として再現した。③各組換えウイルスの性状をMDCK-SIAT1細胞を用いたin vitro解析およびC57BL/6マウスを用いた感染実験によるin vivo解析により検証した。④一部の組換えウイルスをMDCK-SIAT1細胞で増殖させ、培養上清からウイルスを回収し濃縮した。濃縮ウイルス液を可溶化し、超遠心法によりHA分画を抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究によって、HA-MASの糖鎖プロファイルのみが異なる組換えウイルスの作製に成功し、各組換えウイルスの性状解析を順調に行うことができており、各組換えウイルスの増殖効率やマウスに対する感受性が異なることが示唆される結果が得られている。研究計画の次の段階では各組換えウイルスに対する抗血清(抗体)を作製し、抗血清によるウイルス中和活性の検証を行う。抗血清作製には高濃度のHAタンパク質が抗原として必要であるが、今回作出した組換えウイルスの一部の株はMDCK-SIAT1細胞での子孫ウイルス増殖能が低いため、十分な量の抗原が得られないという問題が生じている。本研究課題では組換えウイルスを増殖させる手段として鶏卵が使用できない(HAに鶏卵馴化の遺伝子変異が高確率で生じる為)ため、培養細胞での子孫ウイルス増殖効率を上げる改善策等を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、細胞培養方法の条件検討およびrecombinant HAを用いる方法などを解決策として検討している。MDCK-SIAT1細胞を用いた組換えウイルスの大量培養およびHA抗原の精製の問題点を速やかに解消(いくつかの組換えウイルス株ではHA抗原が得られている。)し、これらの抗原を用いてモルモットを用いて抗血清(抗体)を得る。次に各組換えウイルスおよび抗血清をを用いて交叉中和活性などを評価する。その結果を基に、複数の抗原を様々な組み合わせで混ぜたHA抗原(multi-split HA抗原)を用いて抗血清を作製し、その中和活性の検証とmulti-split HA抗原で免疫したマウスへの組換えウイルス感染実験を行い、multi-split HAワクチンの有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いる購入品の一部が定価より安価で納入されたために少額の残高が生じた。この残高については次年度使用額に合算して使用する。
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備考 |
研究内容や成果については川崎医科大学微生物学教室ホームページにて紹介していく。
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