肺炎マイコプラズマは感染細胞におけるPARP1依存的なpoly(ADP-ribose)の形成を低下させることで過酸化水素誘導性の細胞の剥離を抑制する。そのメカニズムについて調べるため、前年度は感染に伴うPARP1の活性化レベルの変化の解析を行ったが、予想に反して肺炎マイコプラズマは感染細胞のPARP1活性を抑制せず、逆に強く活性化することが分かった。このことから肺炎マイコプラズマはPARP1によるpoly(ADP-ribose)形成の材料となるNADの利用を制限することでpoly(ADP-ribose)の形成を抑制するのではないかと考え、2021年度はまず肺炎マイコプラズマ感染細胞における細胞内NAD量の測定を行った。その結果、肺炎マイコプラズマ感染細胞ではその感染菌数依存的にNAD量が減少することが分かった。このNAD量の減少がPARP1によるpoly(ADP-ribose)の形成に影響することを確認するために、NAMPT阻害薬であるFK866処理によって細胞内NAD量を低下させた細胞を過酸化水素で刺激した際のpoly(ADP-ribose)の形成量をウエスタンブロッティングで調べたところ、FK866処理細胞ではpoly(ADP-ribose)の形成量の顕著な減少が見られた。さらにFK866処理細胞では過酸化水素刺激に伴う細胞の剥離の傾向の低下が観察された。以上の結果から肺炎マイコプラズマは感染細胞の細胞内NAD量を低下させることで、過酸化水素誘導性のPARP1依存的な細胞の剥離を低下させ、感染の足場となる気道上皮細胞を保護することで持続的に感染する可能性が示唆された。
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