研究課題
我々の研究室は、肝臓から脳に至る臓器連関が個体の代謝恒常性の維持において、重要な役割を担っていることを報告してきた。今回、後天的・肝臓選択的にインスリン受容体をノックアウトしたマウスを作成し、肝臓のインスリン作用の減弱が個体レベルのエネルギー代謝に及ぼす影響を検討したところ、摂食の増加および個体レベルの酸素消費量の低下を誘導し、体重の増加を引き起こすことがわかった。詳細な解析を行うと、褐色脂肪組織において熱産生が低下していることが示唆され、個体レベルのエネルギー消費低下の要因になっているものと考えられた。さらに褐色脂肪組織の熱産生が低下したメカニズムを検討すると、褐色脂肪組織を支配する交感神経活性の低下、およびその交感神経のプレモーターニューロンである延髄吻側縫線核の活動が低下していることが明らかになった。一方、このマウスでは、レプチンの血中濃度が上昇しているにもかかわらず、視床下部における神経活性化マーカーの発現が低下していた。そこで、視床下部においてレプチンの作用不全が生じている可能性を考え、レプチン負荷試験を行うと、レプチン投与によって生じる視床下部ニューロンの活性化が、ノックアウトマウスで有意に減弱していた。これらにより、肝臓におけるインスリン作用の低下は、視床下部のレプチン感受性の低下による摂食増加や褐色脂肪組織の熱産生低下を惹起することで、体重増加をきたすことが示唆された。以上、肝臓のインスリンシグナルを端緒とし個体レベルでのエネルギー代謝を制御する新たな臓器間ネットワークを発見した。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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