研究課題/領域番号 |
19K17952
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 亮 東北大学, 医学系研究科, 助教 (80733815)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝子発現制御 / 熱産生 / 脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
これまで脱リン酸化酵素の触媒サブユニットPP1Bや調節サブユニットMYPT1の発現を抑制することでベージュ脂肪細胞分化が亢進することを明らかにしている。PP1B-MYPT1複合体の基質となり、かつ、ベージュ脂肪細胞分化の調節因子であるタンパク質としてヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aに着目した。ベージュ脂肪細胞のマーカー遺伝子である熱産生遺伝子UCP1のエンハンサー上において、JMDJ1AはヒストンH3の9番目リジンのジメチル、モノメチル除去酵素として働く。また、アドレナリン刺激により熱産生が活性化する際、JMJD1Aの265番目セリンはリン酸化されることが報告されている。今回、PP1B-MYPT1複合体はJMJD1A S265の脱リン酸化に関与することを明らかにした。 JMJD1A S265リン酸化がUCP1遺伝子の発現亢進することは培養細胞を使った実験で検証されている。しかしながら実際に生体内でJMJD1A S265リン酸化がどの程度脂肪細胞の熱産生に寄与しているかは不明であった。今回の研究では、S265番目のセリンをアスパラギン酸に置換した点変異体マウス (Jmjd1a SDマウス) を作製した。このマウスからstromal vascular cells (SVC) を初代培養し、ベージュ脂肪細胞への分化能を検証した結果、SD変異体由来のSVCはより高いベージュ脂肪細胞分化能を示した。これらの結果は、生体内においてもJMJD1A S265リン酸化は脂肪前駆細胞のベージュ脂肪細胞分化能を亢進させる方向に機能することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱リン酸化酵素複合体PP1B-MYPT1がJMJD1A S265のリン酸化状態を調節することで脂肪前駆細胞のベージュ脂肪細胞分化を制御していること見出した。また、JMJD1A S265のリン酸化状態を模したJMJD1A SDマウスでは熱産生が亢進している傾向を示唆する結果が得られており、初代培養したSVCを用いた解析では熱産生遺伝子の発現が上昇することを明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
PP1B-MYPT1複合体がJMJD1Aの脱リン酸化を調節していることは明らかとなったが、実際にPP1B-MYPT1とUcp1エンハンサーのヒストン脱メチル化状態はまだ解明されていない。PP1B-MYPT1の発現抑制条件下におけるJMJD1AのUcp1エンハンサーへのリクルートメントやヒストンH3K9メチレーションレベルをChIP assayにより明らかにする必要がある。 JMJD1A SDマウスでは、白色脂肪のベージュ化が促進され熱産生能が向上していることが示唆されつつあるが、明瞭な差ではない。そこでJMJD1A S265D置換体を組織特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製し白色脂肪組織での熱産生遺伝子発現への寄与を解明することを計画している。 一方、JMJD1A S265をアラニンに置換したマウス (Jmjd1a SAマウス) を用いた解析から、S265がリン酸化されないJMJD1Aを発現するSVCにおいて、MYPT1発現抑制下でベージュ化が促進されることがわかっている。この結果は、PP1B-MYPT1発現抑制において、ベージュ化促進に寄与するのはJMDJ1Aだけではないことを示唆している。今後、MYPT1の複合体プロテオーム解析やMYPT1発現抑制下でのリン酸化プロテオーム解析を用いてMYPT1の新規標的タンパク質の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画当初、組織特異的MYPT1 KOマウスの解析を予定していた。しかしながら、Mypt1 floxマウスの作製に遅れが生じており、該当年度に解析を始めることができなかった。したがって組織特異的MYPT1 KOマウスの解析は翌年度に行う予定であり、その費用を翌年度分に請求した。
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