研究課題/領域番号 |
19K17954
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 郷太郎 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医 (30780332)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 食後糖代謝調節 / 腸内細菌叢 / 免疫 |
研究実績の概要 |
私たちは摂食後、腸内細菌の成分であるLPSの血中濃度が増加することが正常な状態で果たす役割を明らかにしたいと考えた。通常食を摂取したマウスでは、食後にinterleukin (IL)-10の門脈内濃度が上昇しており、初代培養肝細胞において生理的濃度のインスリン単独では肝糖新生遺伝子が抑制されないが、インスリンとLPSで刺激した骨髄由来マクロファージの培養上清の添加では抑制された。その一方でIL-10ノックアウトマウス由来のマクロファージの培養上清ではこのような糖新生遺伝子発現の抑制は見られず、in vitroでの肝細胞の糖新生遺伝子抑制がIL-10依存的であると考えられた。IL-10はマクロファージでLPSとインスリンの共刺激により短時間で強力に誘導された。骨髄系細胞でTLR、インスリンシグナルが減弱するマウスではマクロファージのインスリン、LPSによるIL-10発現は減弱し、食後の糖新生遺伝子発現抑制が障害された。Aktにより抑制されmTORを抑制するTSC2がAkt1/Akt2と同時に骨髄系細胞特異的に欠損したマウスではmTORが活性化され、コントロールと同等の摂食反応が見られたことから、マクロファージのAkt-mTORシグナルが食後血糖調節に重要と考えられた。高脂肪食を摂取し肥満したマウスでは内臓脂肪組織マクロファージのIL-10陽性率が低下しており、食後の糖新生遺伝子発現が抑制されなかったが、アデノウイルスを用いてIL-10を強制発現すると食後血糖は低下し、肝糖新生遺伝子発現は抑制された。これらの結果から、マクロファージが食後腸管由来のLPSとインスリンに反応しAkt-mTOR依存的にIL-10を発現し、インスリンと協働して肝糖新生を抑制する経路が生理的な状態での食後糖代謝調節に重要と考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓における食後血糖調節でのIL-10特異的な免疫の役割を共培養系を用いて明らかにすることができた。またインスリン、LPSで刺激した骨髄由来マクロファージのRNA-seqによる解析で刺激後早期に誘導される転写因子が明らかとなり、siRNAによりknockdownする手法によりIL-10発現に重要な因子を絞り込む作業を進めることができた。ただしCOVID-19の感染拡大に伴いin vivo, in vitro実験の計画遂行に支障が出ており、半年から1年間の遅延が見込まれる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで明らかになった食後血糖調節因子の候補が個体レベルで役割を果たしうるか、摂食によるクロマチンの構造変化と相関しうるかを検討するために組織特異的ノックアウトマウス、NGSによる解析を活用して進めたいと考えている。ただしCOVID-19の感染拡大により施設利用等に制限が大きくなっており、in vitroの実験を優先して行うなどの方法を検討中である。
|