研究課題/領域番号 |
19K17958
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
石井 俊史 山梨大学, 医学部附属病院, 医員 (50835957)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロスタシン / 膵β細胞 / インスリン分泌 |
研究実績の概要 |
本研究では「膵β細胞プロスタシンのターゲット蛋白」、「プロスタシン発現・活性の制御メカニズム」を明らかにすることを目的としている。本年度の主な研究成果として、以下の3点を挙げる。 1つ目に当研究室で独自に作製した膵β細胞特異的プロスタシン過剰発現(PRSS8-βTG)マウスを用いて、耐糖能やインスリン分泌に関する解析を行った。膵β細胞特異的プロスタシンノックアウト(PRSS8-βKO)マウスではグルコース腹腔内投与(IPGTT)で有意な血糖上昇と単離膵島におけるグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)の優位な低下を認めた一方、PRSS8-βTGマウスではIPGTTに違いはないものの、GSISは有意に増加していた。PRSS8-βTGマウスでIPGTTに有意差を認めなかったことは、プロスタシンをターゲットとした糖尿病治療の臨床応用を考えたときに、低血糖を生じない適切なインスリン分泌を促しうる可能性を示している。 2つ目に、プロスタシンノックダウンMIN6細胞を用いた電気生理学的アプローチによるCa2+チャネル解析を実施した。プロスタシン発現抑制によってCa2+蛍光指示薬Fura2-AMの取り込みは低下していた。Ca2+取り込みは重要なインスリン分泌メカニズムのワンステップであり、プロスタシンによるインスリン分泌変化を補完する重要なデータであると考えられる。 3つ目に、C57BL/6マウスにおいて食餌によるプロスタシン発現量の変化をみた。マウス膵島のプロスタシン発現量は絶食時には発現量が減少し、再摂食時には増加することを確認した。一方、興味深いことに、高血糖状態の遺伝学的および食餌誘導性糖尿病モデルマウスではプロスタシン発現量が減少していた。これらの結果から、短期間の高血糖曝露はプロスタシン発現量が増加させるが、長期間の曝露では何らかの理由によって減少することが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画として、「①電気生理学的アプローチによる電位依存性Ca2+チャネルの解析」、「②膵β細胞プロスタシンの発現制御の解析」の2点を掲げている。いづれも現在進行中であり、進捗状況としてはやや遅れている。①については、パッチクランプ法を用いてプロスタシンノックダウンMIN6細胞におけるCa2+チャネルの解析を行っている。またセリンプロテアーゼであるプロスタシンによるCa2+チャネルの切断による活性制御を想定し、各サブユニットの切断が行われていないかを検証している。②については、グルコース濃度によってプロスタシンの発現量が変化したことから、グルコースが発現制御に関与していると考えている。mRNAレベルではプロスタシン発現量に変化がなかったことから,それ以降の蛋白レベルでの修飾が生じていると考えられ、グルコースによる糖鎖修飾を想定している。現在タグ挿入プロスタシンを作製し、MIN6細胞上で発現させたプロスタシンを用いた糖鎖プロファイリングに向け準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、プロスタシン発現量に応じてインスリン分泌が変化することを細胞・動物レベルで実証してきた。「プロスタシン」と「インスリン分泌」の間に介在するターゲット蛋白やメカニズムがを明らかにすることが今後の主要な課題である。まずは進捗状況に記載した「①電気生理学的アプローチによる電位依存性Ca2+チャネルの解析」により、Ca2+チャネルが直接的ターゲットであるかどうかの結論づけを行う。また並行して他のターゲット蛋白の可能性も探る。一方、「②膵β細胞プロスタシンの発現制御の解析」については、グルコースによる発現制御および糖鎖修飾に関する上記の実験を進める。また、糖尿病モデルマウスでは高血糖状態であるにもかかわらず反対に発現が低下していたが、膵β細胞プロスタシンの病態生理学的側面を示唆する結果であり、このメカニズムについて解析を進める。肝臓に発現するプロスタシンに関する当教室の報告の中で、酸化ストレスによるプロスタシン発現低下が示されており、同様のメカニズムによる発現低下が推測される。これを実証することで、膵β細胞におけるプロスタシンのインスリン分泌制御という生理学的作用のみならず、糖尿病発症や長期罹患のよるインスリン分泌枯渇の病因としてプロスタシン減少が関与している可能性も追及していく。
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