研究課題
2型糖尿病の進展には小胞体ストレス(ER stress)による膵β細胞量減少が重要な役割を果たしている。Casein kinase 2 (CK2)はER stress下で重要な役割を担っており、抗アポトーシス作用を持つことが報告されている。私たちは膵β細胞機能不全においてER stressにより誘導される転写因子C/EBPβは、CK2によりリン酸化されることを報告した。そこでCK2の膵β細胞での発現、ER stressに対する役割を明らかにすることを目的とした。2型糖尿病のモデルマウス、高脂肪食マウスの膵島において、CK2の活性調節サブユニットであるCK2βは増加し、CK2活性は上昇していた。MIN6細胞をER stress下でsiRNAによるCK2βノックダウンを行うと、unfolded protein response(UPR)は亢進しC/EBPβは増加、アポトーシスは亢進した。MIN6細胞にCK2βの強制発現を行うとCK2活性は上昇し、UPRは減少、C/EBPβも減少しアポト-シスは減少した。また、CK2は通常状態では小胞体でATF6をリン酸化し、CK2βの強制発現により小胞体ストレス関連分解 (ER-associated degradation, ERAD)タンパクであるEDEM, 分子シャペロンであるGRP78が増加した。次にunfolded protein 蓄積についての評価を行った。アンチトリプシン欠損症の患者から検出されたアンチトリプシン変異型は、ERADの基質となりunfolded proteinのモデルとして使用されている。CK2βと変異型アンチトリプシンを共発現すると変異型アンチトリプシンの蓄積は抑制された。以上よりCK2活性化により、ATF6 との相互作用を介してERADが亢進し小胞体ストレスを軽減すると考えられた。CK2活性化により膵β細胞でも小胞体ストレスを改善し、2型糖尿病の治療につながると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまでにはCK2を阻害するとUPRが亢進し、細胞はアポトーシスに陥ることは悪性腫瘍の領域で多く示されていたが、機序は明らかとなっていなかった。また、CHOPやATF4との相互作用の報告はあったがいずれもin vitroにおける研究であり、in vivoにおける作用は検討されていなかった。今回、私たちは膵β細胞株であるMin6を用いてCK2の働きについて検討した。膵β細胞では、高血糖によるインスリン合成の負荷によりER stressは悪化しやすい。今回の検討の結果、CK2は小胞体ストレスに対して活性化すること、CK2のUPRに対する新しい作用として、ATF6のリン酸化、シャペロンの増加などによるERADの亢進を示すことができた。
CK2によるATF6のリン酸化部位を質量解析または候補部位のアラニン置換によって特定する。ATF6リン酸化部位アラニン置換体により同様の効果があるか検討が必要である。また、論文発表に向けて準備中をすすめる。
当初予定していた試薬の購入を行わなかったが、次年度に購入し研究に用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
J Diabetes Investig.
巻: 10(3) ページ: 577-590
10.1111/jdi.12945.Epub 2018 Nov.8.