研究課題/領域番号 |
19K17964
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
一町 澄宜 広島大学, 病院(医), 助教 (00805666)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 原発性アルドステロン症 / 高血圧 |
研究実績の概要 |
アルドステロン産生腺腫(APA)による原発性アルドステロン症と診断した患者より摘出した副腎腫瘍検体から、シングルセル解析を行うために腫瘍細胞を分離し凍結保存した。また同時に同腫瘍検体からDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)によるターゲットシーケンス解析を用いてAPAで報告されている既知の遺伝子変異の有無について検討した。これらの検体の中からNGS解析でKCNJ5変異が同定された副腎腫瘍細胞検体について、シングルセル解析に用いるためのサンプル処理を行った。具体的には、DAPIで標識しFACSソーティングにて死細胞を除去した。また、同時に細胞径から血球など他の細胞を除去し、副腎腫瘍の生細胞が高率に含まれるよう選別した。上記手法を用いて合計14検体のサンプルを用意し、これらの中で生細胞数:47538と最も多くの生細胞が得られたKCNJ5 L168R変異の副腎腫瘍検体をシングルセル解析に用いた。シングルセル解析はFluidigm C1 Single-Cell Auto Prepシステムを用いて行い、検体液を集積流体回路にプライミングし96細胞をシングルセルとし、DNAシークエンス(遺伝子変異検索)とRNAシークエンス(遺伝子発現解析)を行った。KCNJ5変異APAにおけるKCNJ5変異をもたない細胞 (wild type)でのアルドステロン合成機構に関わる鍵因子を同定するため、現在結果を解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における当初の計画では、2019年度にシングルセル解析を用いた遺伝子変異の有無による遺伝子発現量の同定及びアルドステロン合成に関わる候補接着因子の同定と発現解析を予定した。具体的なステップとして、①手術で摘出したAPA標本を個々の細胞に分離し、KCNJ5変異が陽性であった腫瘍を対象として、分離した単一細胞を次世代シークエンサーで、遺伝子変異解析、DNA・クロマチンメチル化解析、遺伝子発現解析を組み合わせた多層的オミクス解析を行う。②遺伝子変異の有無により群分けし、KCNJ5変異をもたない細胞 (wild type)における結果をBioinformaticsにより、アルドステロン合成機構を推定する。③KCNJ5変異をもたない細胞 (wild type)における細胞の鍵因子を同定後、APA組織において免疫組織化学により蛋白発現の局在を確認し、KCNJ5変異または他の遺伝子変異をもつAPAにおける蛋白発現を比較検討する。を計画していた。 現在の進捗状況としては、①の多層的オミクス解析を行っている段階でありやや遅れている。この理由として、APAにおける遺伝子変異は術前検査で把握することができず、摘出腫瘍のDNAをシーケンスしないと分からないことが挙げられる。術前に本研究の適切なサンプルか把握することができないため、網羅的にAPA手術検体を準備する必要がありシングルセル解析のサンプル準備に時間を要した。さらに、遺伝子変異確認のため腫瘍細胞を一度凍結保存することから、生細胞数が少なくなりシングルセル解析に必要な充分なクオリティのサンプルを用意することに難渋した。結果として合計14検体のサンプルを用意したが、最終的には良好な生細胞数のサンプルが得られたため、質の良い結果が得られるものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
1. シングルセル解析を用いた遺伝子変異の有無による遺伝子発現量の同定とアルドステロン合成に関わる候補接着因子の同定と発現解析 多層的オミクス解析により遺伝子変異の有無により群分けし、KCNJ5変異をもたない細胞 (wild type)における結果をBioinformaticsによりアルドステロン合成機構を推定する。KCNJ5変異をもたない細胞 (wild type)における細胞の鍵因子を同定後、APA組織において免疫組織化学により蛋白発現の局在を確認する。KCNJ5変異または他の遺伝子変異をもつAPAにおける蛋白発現を比較検討する。 2. アルドステロン合成に関わる細胞接着因子の機能解析 (In vitro解析) アルドステロン合成に関与する細胞間情報伝達因子を推定後、HAC15または摘出標本の初代培養細胞におけるステロイド合成酵素やアルドステロン合成に与える影響を、レンチウイルスによる遺伝子発現調節、拮抗薬や阻害薬を用いて検討する。また、細胞間情報伝達の活性化は、mRNA発現と蛋白発現の差を比較することによっても明らかとなり、qPCRやウエスタンブロッティングを組み合わせて行う。 3. 細胞接着因子調節を調節した動物モデルの表現型解析 (In vivo解析) Splague-Dawley ratを低ナトリウム食で飼育することにより、レニン・アンギオテンシン系が亢進した高アルドステロン血症のモデルラットを作製し、細胞間情報伝達を阻害する化学物質の投与を行い表現型に与える影響を検討する。
|