研究課題/領域番号 |
19K17974
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山崎 有人 東北大学, 医学系研究科, 助教 (70833367)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルドステロン / カルシウム代謝 / 原発性アルドステロン症 / 高血圧 / 副腎 |
研究実績の概要 |
今年度は副腎皮質癌培養細胞を用いて、培養液中の Ca 濃度を変化させ、ステロイド合成酵素の発現量の変化を解析したところ、細胞外液中の Ca 添加により、アルドステロン合成酵素である CYP11B2 の発現が誘導される事を示し、細胞外 Ca 濃度がアルドステロン産生に直接的に影響する事を証明した。また、Ca 代謝に関連する PTH を添加したところ、コルチゾール産生酵素である CYP11B1, CYP17A が誘導された。Ca代謝に関連する因子の受容体(PTH1R, VDR, CaSR)の局在をヒト副腎組織(n=17)を用いて免疫組織学的に検討したところ、球状層において最も発現が高い結果となり、また、アルドステロン産生腺腫の方が、コルチゾール産生腺腫に比してこれらの因子の発現量は高い結果となった。更にアルドステロン産生腺腫組織におけるこれらの受容体の発現量と CYP11B2 の発現量は有意に相関した。以上の事から、アルドステロン産生腺腫において、細胞外 Ca 濃度、及び、それを調節する PTH 等はアルドステロン合成に加え、コルチゾール共産生を刺激する事が示された。以上の結果は、これらの Ca 代謝に関与する因子(細胞外 Ca 濃度や PTH等)がアルドステロン産生腺腫における特有の腫瘍性ステロイド産生(アルドステロンおよびコルチゾール共産生)を促進するものと考えられた。今年度は本研究成果を Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology(2019 Oct;193:105434. doi: 10.1016/j.jsbmb.2019.105434)誌に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では初年度において、Ca代謝調節因子の受容体のヒト正常副腎皮質および副腎皮質疾患における局在の検討を行い、ヒト副腎皮質癌培養細胞(H295R)を用いたCa代謝調節因子のアルドステロン合成に与える影響の検討は細胞外 Ca 濃度や添加因子(PTH等)の濃度勾配、経時的変化の validation に時間がかかると予想されたが、既報告の濃度および time course を参照したところ、ステロイド合成酵素の発現推移が明瞭に得られたため、上記の validation にかかる時間が短縮され、再現性を伴う結果が得られた。また、臨床検体を用いた免疫組織化学的検討においてもアルドステロン産生腺腫 30 例、正常副腎組織 17 例の解析を行い、目標症例数を解析する事が出来た。一方で、Ca 代謝調節因子(細胞外 Ca と PTH 等)と Angiotensin Ⅱ や Forskolin との共刺激に対するステロイド合成酵素の推移についての検討は不十分であり、引き続き必要に応じて次年度以降の検討課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は研究計画調書に記載の通り、臨床因子(血清および尿中のCa代謝マーカー[Ca, P, PTH,1,25-(OH)2 vitamin D3, TRACP-5b] や骨密度の測定値等)との相関性を検討する予定である。更に、今年度の研究成果より細胞外 Ca 濃度はアルドステロン合成に重要な役割を示す事が判明したため、細胞外 Ca が流入する門戸である Ca チャネルの発現動態、機能についても検討する予定である。アルドステロン合成細胞には電位依存性 L 型 Ca チャネルである CaV1.3 が多く発現している事が報告されている。CaV1.3 をコードする CACNA1D 遺伝子の体細胞遺伝子変異は原発性アルドステロン症の両側病型である特発性アルドステロン症において頻繁に検出される事が判明しており、細胞膜の持続的な脱分極を誘導し、細胞内 Ca 流入を促進する事が報告されている。降圧剤として使用される Ca 拮抗薬も in vitro において CaV1.3 に結合し、アルドステロン合成を抑制する事が報告されている。しかしながら、生体内における分布や作用は未解明であり、次年度以降は imaging mass spectrometry によるヒト組織を用いた切片上での Ca 拮抗薬の分布や局在についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に免疫組織化学および培養細胞に関連した実験計画を遂行したため、免疫組織化学の抗体等の関連物品購入のための支出が多くを占める結果となった。更に本年度の研究成果に関連した国際学会(Progress in Primary Aldosteronism 6)に演題を提出し、その旅費として今年度の支出を計上した。また、幸いにも今年度は当初予定していた進捗よりも早く結果が得られたため、免疫組織化学や培養細胞実験に関連した消耗品の物品費は少なく抑える事が出来た。一方で、次年度以降には前述の通り Ca 拮抗薬のアルドステロン合成に関与する影響を Ca チャネルの免疫組織化学や imaging mass spectrometry により検討する予定であり、今年度の未使用額はこれらの研究計画の物品購入費に割り当てる予定である。更に、次年度以降は今年度得られた研究成果を国内外の学会において発表報告する事を検討しているため、学会参加のための旅費にも割り当てる予定である。
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