研究実績の概要 |
褐色脂肪細胞はミトコンドリアにおける uncoupling protein-1(Ucp1)の機能を介して熱を産生しエネルギーを消費する点において、主にエネルギーの貯蔵を担う白色脂肪細胞とは対照的な組織である。また白色脂肪細胞の一部は寒冷刺激や交感神経刺激に応じてUcp1陽性で発熱能を有する誘導型褐色脂肪細胞に変化し得る。既に褐色脂肪細胞の活性がBMIと負に相関し加齢に伴って低下することが知られており、褐色脂肪細胞の数や働きを高めることが「エネルギー摂取の抑制」ではなく「エネルギー消費の促進」に基づく肥満症や肥満2型糖尿病の新しい治療法につながり得るとして期待されている。申請者は褐色脂肪細胞の分化を制御する鍵因子として転写因子NFIA (nuclear factor I-A)を同定し解析してきた(Hiraike Y., et al. Nature Cell Biology 2017, Hiraike Y., et al. PLoS Genetics 2020)。ヒト褐色脂肪細胞の活性には個人差が大きいことが知られており、マウス近交系においても系統間の差が大きいためゲノム多型の影響が想定される。本研究において申請者は太りやすく褐色脂肪細胞活性の低いC57BL/6Jマウス、太りにくく褐色脂肪細胞活性の高い129X1/SvJマウスおよびこれらを交配させたF1をモデルに網羅的クロマチン構造解析を行い、ゲノム多型がゲノム-エピゲノム連関を介してUcp1の発現を規定するメカニズムを同定した。その知見をヒト褐色脂肪細胞にも応用することで、肥満症や肥満2型糖尿病における精密医療の実現を目指すものである。
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