褐色脂肪細胞はミトコンドリアにおけるuncoupling protein-1(Ucp1)の機能を介して熱を産生しエネルギーを消費する点において、主にエネルギーの貯蔵を担う白色脂肪細胞とは対照的な組織である。褐色脂肪細胞の数や働きを高めることは「エネルギー摂取の抑制」ではなく「エネルギー消費の促進」に基づく肥満症や2型糖尿病の新しい治療法につながり得るとして期待されている。ヒト褐色脂肪細胞の活性には個人差が大きいことが知られており、マウス近交系においても系統間の差が大きいためゲノム多型の影響が想定される。本研究において我々は太りやすく褐色脂肪細胞活性の低いC57BL/6J(B6)マウス、太りにくく褐色脂肪細胞活性の高い129X1/SvJ(129)マウスおよびこれらを交配させたF1をモデルに網羅的クロマチン構造解析を行い、ゲノム多型がゲノム-エピゲノム連関を介してUcp1の発現を規定するメカニズムを同定し報告した。すなわち、Ucp1を正に制御する転写因子nuclear factor I-A(NFIA)と負に制御する転写因子vitamin D receptor(VDR)はUcp1 -12kbエンハンサー領域において競合的関係にあること、129のalleleではUcp1 -12kbエンハンサーに位置するSNP rs47238345がVDRの結合モチーフを崩してVDRのゲノムへの結合を負に、NFIAのゲノムへの結合を正に制御しUcp1発現が高まることを明らかにした。更にrs47238345をB6のalleleから129のalleleへ置換したマウスにおいてはUcp1発現が上昇することを示した。
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