研究課題/領域番号 |
19K17984
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山口 哲志 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 非常勤研究員 (00834326)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | microRNA / ターゲット遺伝子 / 脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
野生型マウス(miR221/222flox/y)およびmiR-221/222脂肪細胞特異的ノックアウトマウス(miR-221/222AdipoKO)を通常食飼育群、高脂肪高蔗糖食飼育群に分けて飼育した。miR-221/222は高脂肪高蔗糖食飼育マウスの脂肪組織において著明に発現上昇するが、miR-221/222AdipoKOではmiR221/222flox/yと比較して精巣周囲脂肪組織におけるmiR-221/222の発現は有意に抑制され、体重の減少、脂肪重量の減少、脂肪肝の改善、糖代謝の改善を認めた。精巣周囲脂肪組織より抽出したRNAを用いてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を施行した。その結果、miR-221/222のターゲット遺伝子候補としてDNA-damage-inducible-transcript4 (Ddit4)を同定した。3T3L1細胞を用いたDdit4遺伝子の3’非翻訳領域のレポーターアッセイを施行しmiR-221/222はDdit4に対して遺伝子発現抑制作用を有する事を確認した。精巣周囲脂肪組織におけるDdit4の遺伝子発現および蛋白質発現量は野生型マウスに比較してmiR-221/222AdipoKOにおいて上昇していた。Ddit4はmTOR活性の抑制因子として知られており、脂肪細胞においてはmTORC1活性の抑制を介してインスリンシグナルを増強することが報告されている。またDdit4ノックアウトマウスにおいてはインスリン抵抗性による耐糖能の悪化を認めることが報告されている。以上のことからmiR-221/222の脂肪組織における発現上昇はDdit4をターゲット遺伝子として肥満症の病態形成に寄与していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
miR-221/222の肥満の病態形成における役割を明らかにするためには、miR-221/222のターゲット遺伝子に対する転写制御の動態(miRNA-mRNA interaction)を検討する事が不可欠である。 miR-221/222のターゲット遺伝子は、miRBase Sanger Institute miRNA databasesなどのデータベース上の遺伝子の3’UTRのシークエンス情報から予測可能であるが、そのような遺伝子群は数多く存在するため、培養細胞や遺伝子改変動物を用いてそのターゲットを検証する必要がある。 現在までの検討において、野生型マウスおよび脂肪細胞特異的miR-221/222ノックアウトマウスの精巣周囲脂肪組織における遺伝子発現解析によりターゲット遺伝子としてDdit4を同定し、さらに定量PCRおよびウエスタンブロットによるマウス脂肪組織におけるDdit4遺伝子および蛋白質発現の確認、3T3L1細胞を用いたレポーターアッセイによるmicroRNA活性の測定など複数の方法でDdit4の動態を検証する事により、ターゲット遺伝子として矛盾しない結果を得ている。そのためおおむね順調に研究は進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪細胞特異的miR-221/222ノックアウトマウス(miR-221/222AdipoKO)は高脂肪高蔗糖食に対して肥満抵抗性を示すため、miR-221/222は脂肪細胞で発現することにより、肥満の病態形成に関与すると考えられる。現在までにmiR-221/222のターゲット遺伝子としてDdit4を同定しており、精巣周囲脂肪組織におけるDdit4の発現はmir221/222AdipoKOにおいて野生型マウス(miR-221/222flox/y)に比較して増加している事も確認した。Ddit4はmTOR活性の抑制因子であることからmiR-221/222AdipoKOの脂肪組織においてはmiR-221/222flox/yに比較してDdit4の発現が増加する結果、mTOR活性が抑制されるために肥満の病態が改善していると推定される。 今後はmiR-221/222発現レンチウイルスベクターや、LNA microRNA MimicあるいはAntagomirを用いてマウス培養 3T3L1脂肪細胞やマウス培養血管内皮細胞で過剰発現あるいはノックダウン実験を行い、miR-221/222によるDdit4を介したmTOR活性への影響を検討する。
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