研究課題
Trk-fused gene (TFG) は小胞体からGolgi体へのCOPII小胞輸送に重要な役割を担うこと、またその遺伝子異常がいくつかの神経変性疾患の原因となることが近年明らかとなってきた蛋白である。TFG遺伝子異常によって生じる神経変性疾患の1つである遺伝性近位筋優位運動感覚ニューロパチー (HMSN-P) では糖尿病・脂質異常症の合併が多いことが知られている。我々はTFGの代謝制御機能に着目し、各臓器特異的TFG KOマウスを作製、その解析を進めている。2019年度は脂肪細胞におけるTFGの役割についてタモキシフェン誘導性成熟脂肪細胞特異的TFG KOマウス (AiTFG KO) の解析を中心に行った。AiTFG KOでは白色脂肪組織におけるPPARγ発現量の低下とともにミトコンドリア量・機能の低下を認めること、また通常食でも耐糖能障害を呈しその原因として肝糖新生の亢進が示唆されることがこれまでに分かっているが、AiTFG KOにPPARγ作動薬であるピオグリタゾンを投与すると、ミトコンドリア機能の低下も肝糖新生関連遺伝子の発現上昇もほぼcancelされることが分かった。したがってAiTFG KOでみられる白色脂肪におけるミトコンドリア機能低下や耐糖能障害はPPARγ依存的である可能性が高いと考えられる。TFG欠失によるPPARγ発現量低下の分子機序について、現在解析を進めているところである。また並行して肝細胞におけるTFGの役割について解析を開始した。Jackson LaboratoryよりAlb-Creマウスを入手し、TFG floxedマウスとの交配により肝細胞特異的TFG KOマウスの作製が完了したところであり、今後高脂肪食負荷に伴う耐糖能障害や脂肪肝の形成に与える影響について、解析を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
脂肪細胞におけるTFGの機能については概ね解析が終了し、PPARγ発現低下の分子機序についてまとまり次第、論文投稿を行う予定である。肝臓におけるTFGの機能についても培養細胞での検討で興味深い結果を得ており、作製したKOマウスの表現型解析にて妥当性を検証したいと考えている。
脂肪細胞におけるTFGの機能について、2020年中の論文掲載を目指す。肝臓におけるTFGの機能については培養細胞での実験結果や脂肪細胞の解析で得られた結果を踏まえ、特に脂肪合成に与える影響に着目し、検討を行っていきたいと考えている。
研究全体としては概ね順調に進行しているが、当初2019年度に開始を予定していた小腸上皮特異的TFG KOマウスの作製や肝細胞特異的TFG KOマウスの解析が次年度以降に繰り下がることになり、結果的に次年度使用額が生じた。2020年度分助成金と合わせて、小腸上皮特異的Cre発現マウスの購入および小腸上皮特異的TFG KOマウスの作製、および高脂肪食負荷やマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析など肝細胞特異的TFG KOマウスの解析に使用させて頂きたいと考えている。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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