研究課題
Trk-fused gene (TFG) は小胞体からGolgi体へのCOPII小胞輸送に重要な役割を担うこと、またその遺伝子異常がいくつかの神経変性疾患の原因となることが近年明らかとなってきた蛋白である。TFG遺伝子異常によって生じる神経変性疾患の1つである遺伝性近位筋優位運動感 ニューロパチー (HMSN-P) では糖尿病・脂質異常症の合併が多いことが知られている。我々はTFGの代謝制御機能に着目し、各臓器特異的TFG KOマウスを作製し、その解析を進めている。2020年度は、脂肪細胞におけるTFGの役割について2019年度に引き続き検討を行った。3T3-L1細胞において分化誘導前からTFGをknockdownすることで、脂肪細胞への分化が顕著に抑制されるが、その機序として従来から着目していたPPARγより上流のC/EBPδのレベルでの発現低下が示された。また、3T3-L1細胞で脂肪細胞への分化後にTFGをknockdownしても(少なくとも短期的には)PPARγ発現量の顕著な低下は見られず、in vivoとの乖離が認められた。当初TFGが直接的にPPARγ発現量を制御していると予想していたが、TFG KOによるPPARγの発現低下は脂肪細胞機能低下を反映した間接的な影響の可能性が高く、その分子機序の一端を解明すべく現在も検討を継続している。また2020年度には肝細胞特異的TFG KOマウスの表現型解析も開始した。このマウスでは肝脂肪蓄積が増加が認められ、現在その機序につき検討を行っているところである。
3: やや遅れている
脂肪細胞特異的TFG KOマウスの表現型を説明する分子機序の解明に当初の想定より難渋しており、論文化に至っていない。肝細胞におけるTFGの機能解析については今のところ概ね計画通りに進行している。
脂肪細胞におけるTFGの機能について、培養細胞での実験結果から細胞レベルと個体レベルで異なる制御が働いている可能性も示唆されるが、まずは細胞レベルでの制御からその一端を解明したいと考えている。TFGがある翻訳後修飾に重要な可能性を示唆するデータが得られており、その可能性につき現在解析を進めている。肝細胞におけるTFGの機能解析については、その発現制御機構も含めて、引き続き検討を行っていく。
新型コロナウイルスの流行に伴い、機器の使用制限や物品の納入遅延などにより実験に遅れが生じたことや、学会がオンラインになったことにより旅費が当初の予定ほどかからなかったことなどが理由である。遅れている分の実験の遂行や論文執筆にかかる費用に、本年度充填する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Metabolism
巻: 115 ページ: 154459
10.1016/j.metabol.2020.154459.