研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)・糖尿病ではインスリン抵抗性増大に伴う肝糖新生亢進が高血糖状態の病態形成に重要な役割を果たすが、その機序は十分には解明されていない。特に鉄代謝においては、肝臓は生体内で最も多くの貯蔵鉄を有し、NAFLDにおいて肝鉄過剰蓄積が高頻度にみられる為、その病態との関わりが注目を集めている。本研究では、生体内および細胞レベルでの鉄代謝制御を介した肝臓におけるインスリン抵抗性の分子機構を解明することを目的とした。がん抑制遺伝子p53は、がんと生活習慣病の接点で作用する重要な転写因子であるが、その下流遺伝子の中において鉄代謝調節作用を発揮するferredoxin reductase(FDXR)に着目し、NAFLD病態における鉄代謝制御を介した肝臓におけるインスリン抵抗性の分子機構との関わりについて検討した。NASH/NAFLSのマウスモデルに代用される高脂肪食負荷を12週間から24週間行うことにより、肝臓における脂肪の蓄積と鉄の蓄積、それに伴う血糖上昇と酸化ストレスの亢進が認められた。さらに、肝臓の組織と細胞レベルにおいて、p53活性化に伴うFDXRの発現上昇を認めた。そこで、生体の肝臓糖新生とインスリン抵抗性におけるFDXRの意義を明らかにする目的で、アデノウイルスをマウス尾静脈より投与して、FDXRの肝臓特異的過剰発現を行った。その結果、肝臓の鉄含有量が低下し、ブドウ糖負荷試験で耐糖能改善しピルビン酸負荷試験で糖新生の抑制を認めた。次に、アデノウイルスベクターにCRISPR/Cas9システムを組み込む系を構築した。FDXR gRNA発現アデノウイルスをマウス尾静脈から投与し、肝臓でFDXRノックアウト効果を確認した。これらの結果は、p53-FDXRシグナルが鉄代謝調節を介して、肝糖新生抑制と生体の糖代謝制御を果たすことを示した新たな知見である。
2: おおむね順調に進展している
CRISPR/Cas9アデノウイルスを用いて、肝臓特異的FDXRノックアウトする系を構築しており、現在同マウスのフェノタイプ解析を進めている。
FDXRの肝臓特異的過剰発現マウスの検討では、FDXRは肝臓への鉄蓄積の抑制と糖新生抑制することを認め、FDXRが鉄代謝を介して肝臓におけるインスリン抵抗性を制御する可能性が示唆される。今後、肝臓特異的FDXRノックアウトマウスのフェノタイプ解析を下記の実験計画で進め、FDXRがNAFLDの進展、糖・脂質代謝における役割を明らかにしていく予定である。①負荷試験、組織学的検討:ブドウ糖負荷試験、ピルビン酸負荷試験、インスリン低血糖負荷試験を行い、耐糖能、肝糖新生、インスリン抵抗性を評価する。加えて鉄添加高脂肪食負荷を継続し、脂肪肝、肝線維化、肝癌の発症を評価する。②次世代シークエンスとマススペクトロメトリーの統合解析:FDXRノックアウトマウスの肝臓組織を用いたRNAシークエンスとプロテオーム解析を行い、鉄代謝調節分子群、糖新生制御分子群、脂質代謝調節分子群の解析結果を多階層性に評価して、FDXRのNAFLD病態における作用点を捉える。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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