研究課題/領域番号 |
19K18000
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
辻本 和峰 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (20801525)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 性差 / エネルギー代謝 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
①脂肪組織のPgc1a発現の雌雄差が、全身の糖・エネルギー代謝に及ぼす影響の解明 雌雄の野生型マウスにそれぞれ高脂肪食を負荷し、食餌誘導性肥満の状態で比較したところ、雌で雄と比較して褐色脂肪細胞におけるPgc1a遺伝子および熱産生関連遺伝子の有意な発現増加が認められた。β3受容体アゴニストであるCL316243を雌雄の野生型マウスに投与した系においても同様の結果が得られ、肥満の病態や、寒冷刺激などの交感神経が活性化する状況において、褐色脂肪組織におけるPgc1a遺伝子の発現が雌有意に増加することが示された。褐色脂肪組織におけるPgc1a遺伝子発現の雌雄差が、個体レベルの糖・エネルギー代謝に対してどのような影響を及ぼしているのか調べるため、後天的・脂肪組織特異的Pgc1a欠損マウスを作製した。野生型マウスの褐色脂肪組織では、雌性マウスは雄性マウスと比較して褐色脂肪組織に特徴的な多房性の小脂肪滴が目立っていたが、Pgc1a欠損マウスの褐色脂肪組織では、雌雄どちらも小脂肪滴の数が減少した。これらから、褐色脂肪組織の熱産生機能の性差にPgc1aが介在している可能性が示唆された。 ②エストロゲン作用を介したPgc1a遺伝子の発現変化およびDNAメチル化変化の検討 エストロゲンシグナルがPgc1a遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化に及ぼす影響について調べるため、通常食および高脂肪食負荷マウスの褐色脂肪組織におけるPgc1a遺伝子のDNAメチル化状態を雌雄マウスで比較検討した。その結果、褐色脂肪組織においてはPgc1a遺伝子のDNAメチル化率に性差は認められず、エストロゲン作用は直接Pgc1a遺伝子のDNAメチル化変化を生じていないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①脂肪組織のPgc1a発現の雌雄差が、全身の糖・エネルギー代謝に及ぼす影響の解明 雌雄の野生型マウスにそれぞれ高脂肪食を負荷し、食餌誘導性肥満の状態で比較したところ、雌で雄と比較して褐色脂肪細胞におけるPgc1a遺伝子の有意な発現増加が確認された。また熱産生関連遺伝子であるUcp1やPrdm16などの発現増加も併せて認められた。β3受容体アゴニストであるCL316243を雌雄の野生型マウスにそれぞれ投与すると、投与群は非投与群と比較して、有意なPgc1a遺伝子の発現増加が認められ、その増加は雌性マウスで雄性マウスと比較して顕著であった。これらから、肥満の病態や、寒冷刺激などの交感神経が活性化する状況において、褐色脂肪組織におけるPgc1a遺伝子の発現が雌有意に増加することが示された。続いて、この発現の雌雄差が個体レベルの糖・エネルギー代謝に対してどのような影響を及ぼしているのか調べるため、Adiponectin-CreERT2+/-マウスとPgc1a-flox/floxマウスを交配して得られた仔マウスにタモキシフェンを投与し、後天的・脂肪組織特異的Pgc1a欠損マウスを作製した。野生型マウスの褐色脂肪組織では、雌性マウスは雄性マウスと比較して褐色脂肪組織に特徴的な多房性の小脂肪滴が目立っていたが、Pgc1a欠損マウスの褐色脂肪組織では、雌雄どちらも小脂肪滴の数が減少した。 ②エストロゲン作用を介したPgc1a遺伝子の発現変化およびDNAメチル化変化の検討 通常食および高脂肪食負荷マウスの褐色脂肪組織におけるPgc1a遺伝子のDNAメチル化状態を雌雄マウスで比較検討した。その結果、Pgc1a遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化率に性差は認められず、エストロゲン作用は直接Pgc1a遺伝子のDNAメチル化変化を生じていないと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
肥満の病態や、寒冷刺激などの交感神経が活性化する状況において、褐色脂肪組織のPgc1a遺伝子と熱産生関連遺伝子は雌優位に発現が上昇しており、後天的脂肪組織特異的Pgc1a欠損マウスではその性差が消失していた。Pgc1a欠損マウスは雌雄どちらも褐色脂肪組織に特徴的な小脂肪滴の数が減少しており、褐色脂肪組織の機能的性差にPgc1a遺伝子が重要な働きを担っていることが示唆される。さらにエストロゲン作用が直接Pgc1a遺伝子のDNAメチル化変化を生じていないという今回の結果を踏まえると、エストロゲン作用はPgc1aを介して、その標的遺伝子である熱産生関連遺伝子のDNAメチル化変化を生じている可能性が推測された。この仮説を検証するため、今後エストロゲン欠乏の代表的実験モデルである卵巣摘出マウスや、in vitroの実験系を用いて、熱産生関連遺伝子のDNAメチル化変化の解析を進めていく。 ①エストロゲン作用を介した熱産生関連遺伝子の発現変化およびDNAメチル化変化の検討 エストロゲン欠乏の代表的実験モデルである卵巣摘出マウスの褐色脂肪組織を用いて、Pgc1aの標的となる熱産生関連遺伝子のDNAメチル化について雌雄マウスで比較検討し、エストロゲンシグナルがこれら遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化に及ぼす影響を推定する。 ②エストロゲン作用を介した熱産生関連遺伝子のDNAメチル化変化の分子機序解明 エストロゲン作用を介したDNAメチル化変化が生じることが示された場合、どのようにし てそれが成立するのか、in vitroの実験系を用いて、より詳細な機序解明を試みる。具体的には3T3-L1脂肪細胞において、エストロゲンの添加やsiRNAによるエストロゲン受容体αのノックダウンが、熱産生関連遺伝子のDNAメチル化および遺伝子発現に及ぼす影響を評価する。
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