本研究は当初、T1KOマウスは糖尿病による高血糖状態でも、野生型マウスに比べて、神経細胞内の糖濃度が上昇せず、糖尿病性神経障害の進行が抑制される、という仮説の検証を中心に検討を行った。 具体的にはまず、T1KOマウス、野生型マウスともに、ストレプトゾシンを投与した糖尿病群、およびプラセボを投与した対照群を用意し、一定期間飼育した。その後、①2-デオキシグルコースを用いた神経細胞における糖取り込み能(In vivoおよびIn Vitro)の検討、②神経組織から蛋白を抽出しグルコーストランスポーター蛋白の発現量の解析、③神経細胞を摘出し、高血濃度培地を用いて培養した上で、神経細胞の生存率や神経突起の伸長の測定、そして④外注検査による神経細胞のメタボローム解析を用いて、細胞内のグルコースおよびその代謝産物の解析、といった項目を検討したが、明確な有意差は認めなかった。 そこで現在は、神経の血管周囲のペリサイトに着目をして検討をしている。糖尿病では血管周囲のペリサイトの機能異常を認め、血管透過性の亢進などを引き起こし、神経障害を惹起する一因となっている。ペリサイトにはコンドロイチン硫酸(NG2)が発現しているため、T1KOマウスではそのペリサイトの機能の変化が生じている可能性が高い。それが糖尿病神経障害を抑制する作用があると考えた。 その目的のため、蛍光色素をマウスに静注することによる血管透過性の検討や、ペリサイトの抗体をマウスに投与してペリサイトの機能に差異があるか、またNG2のウエスタンブロッティングや免疫染色などを検討している。ペリサイトの抗体を投与すると、野生型マウスではペリサイトが血管から乖離して異常な血管が増生したが、T1KOマウスではそれが抑制されたため、今後はさらにそのメカニズムを検討していく。
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