研究課題/領域番号 |
19K18005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 摩利子 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70823540)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AgRP / PTP1B / インスリン / レプチン |
研究実績の概要 |
エネルギーバランスは視床下部で調節されており、レプチンとインスリンは視床下部弓状核に存在するPOMCニューロンおよびAgRPニューロンに直接作用し体重を減少させる。PTP1Bはレプチンおよびインスリン受容体シグナルを阻害する蛋白であり、全身性、脳特異的もしくはPOMCニューロン特異的にPTP1Bを欠損させると高脂肪食投与に対して肥満抵抗性を来す。一方、AgRPニューロンにおけるPTP1Bの役割は未だ明らかではない。本研究では、AgRPニューロンにおけるPTP1Bがエネルギーバランスや糖代謝に与える影響を検討し、メタボリックシンドロームに対する新たな治療戦略に繋げる。 具体的には、Cre-loxPシステムを用いてAgRPニューロン特異的PTP1B欠損マウスを作成した。すなわち、AgRPニューロン特異的にCreが発現するAgRP Cre マウス(Jackson laboratory #12899)とPTP1B flox/floxマウス(ペンシルバニア大学 Kendora Bence 博士)を交配させて野生型、ヘテロ接合型およびホモ接合型マウスを作成した。AgRPニューロンが発現してる視床下部弓状核および他の脳領域および末梢臓器からそれぞれDNAを抽出し、所定のプライマーを用いてPCR法にてloxP配列の組み換えを確認したところ、視床下部弓状核のみで生じていることを確認した。次に、AgRPニューロン特異的にPTP1B発現が欠損していることを蛋白レベルで確認する目的視床下部を含む脳切片を作成し、免疫染色を施行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本科研費提出後に、AgRPニューロン特異的にPTP1Bを欠損させたマウスが高脂肪食投与に対して肥満抵抗性を示し、体重とは独立して糖代謝を改善することを報告した論文が発表された(Cell Rep. 2019; 26: 346-355)。 この報告によると、AgRPニューロン特異的にPTP1Bを欠損させたマウスが高脂肪食投与に対して肥満抵抗性を示す機序として、エネルギー消費の変化ではなく、摂餌量が減ることが原因とされている。また、耐糖能の改善も含め、肥満抵抗性の機序としてAgRPニューロンにおけるインスリン受容体シグナルの亢進が寄与している可能性が示唆されている。 こうした報告が出たことから、当初の研究計画を一部変更することとした。この報告では、レプチン受容体シグナルについて深く言及されていないことから、AgRPニューロン特異的PTP1B欠損マウスの作成を確認後、主としてAgRPニューロンにおけるレプチン受容体シグナルが糖・エネルギー代謝に与える影響に着目することとした。
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今後の研究の推進方策 |
AgRPニューロンにおけるレプチン受容体シグナルが末梢の糖代謝に与える影響を調べる目的で、STZを高用量投与しインスリンの作用を極力排除した上で、レプチン投与による糖代謝への影響を検討する。 高用量のSTZ投与によりインスリン依存性糖尿病モデルマウスを作成し、現在、ホモ接合型および野生型の食後血糖を測定し比較検討する。さらに糖代謝を評価する目的でブドウ糖負荷試験およびインスリン負荷試験を行う。またホモ接合型で糖代謝改善を認めた場合は、2DGを用いてブドウ糖の流入がどの臓器レベルで生じているかを確認する。
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