エネルギーバランスは視床下部で調節されており、レプチンとインスリンは視床下部弓状に存在するPOMCおよびAgRPニューロンに直接作用し体重を減少させる。PTP1Bはレプチンおよびインスリン受容体シグナルを阻害する蛋白であり、全身性、脳特異的もしくはPOMCニューロン特異的にPTP1Bを欠損させると高脂肪食投与に対して肥満抵抗性を来す。一方、AgRPニューロンにおけるPTP1Bの役割は未だ明らかではない。 本研究では、AgRPニューロンにおけるPTP1Bがエネルギーバランスや糖代謝に与える影響を検討し、メタボリックシンドロームに対する新たな治療戦略に繋げる。 Cre-loxPシステムを用いてAgRPニューロン特異的PTP1B欠損マウス(AgRPKO)を作成した。AgRPニューロンが発現している視床下部弓状核および他臓器よりDNAを抽出し、PCR法にてloxP配列の組み換えを確認したところ、視床下部弓状核のみで生じていることを確認した。また、AgRPニューロン特異的にPTP1B発現が欠損していることを免疫染色においても確認した。 次に、野生型(WT)とAgRPKOマウスに離乳時より高脂肪食および普通食を与え、16週齢まで体重の経過を確認したところWTとAgRPKOマウスでは有意な差を認めなかった。 Ⅰ型糖尿病モデルマウス(IDDMマウス)においてレプチンが血糖降下作用を認める機序を検討する目的で、AgRPKOマウスおよびPOMCニューロン特異的にPTP1Bを欠損させたマウス(POMCKO)にストレプトゾトシンを腹腔内投与してIDDMモデルマウスを作成後、レプチンを末梢投与して糖代謝に与える影響を検討した。AgRPKOマウスではレプチンによる血糖降下作用はWTと比較してわずかに認められたのみであったが、POMCKOマウスにおいては血糖降下作用がWTと比較して有意であることが確認された。
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