HER2陽性乳癌に対して抗HER2療法は著効し標準治療となっているが、長期治療に伴う薬剤耐性化や限定的な投与期間などの問題が未だ存在している。従って、HER2以外の創薬標的となる細胞増殖制御機構を導出する必要がある。 HER2陽性乳癌細胞の増殖因子リン酸化と細胞増殖を正に制御するユビキチンリガーゼ複合体CUL3/KCTD10の機能を分子レベルで解明するために研究を行なった。 R1年度において、CUL3/KCTD10複合体によりユビキチン化を受け、常に分解されているRhoBの結合タンパク質として、コムギ無細胞タンパク質合成系によって整備されたprotein arrayのうち、約4000タンパクとRhoBとの結合をアルファスクリーンで評価することでCNKSR1の同定に成功した。さらにCNKSR1が結合するphosphataseを再度phosphatase arrayを用いて探索し、EGFR phosphataseとしてPTPRHを同定した。各ドメイン欠損変異体を用いたアルファスクリーンや免疫沈降実験によって、RhoBとPTPRHは、相互排他的に、CNKSR1のPHドメインに結合することを発見した。すなわち、通常状態ではCUL3/KCTD10ユビキチンリガーゼ複合体によりRhoBは常にユビキチン化・分解されており、CNKSR1はPTPRHを結合することでEGFR/HER2のリン酸化を可能とし下流へシグナルを伝達し細胞増殖へと導くが、CUL3/KCTD10を発現抑制しRhoBが蓄積すると、RhoBがCNKSR1と結合することでPTPRHを放出し、EGFRを脱リン酸化させることを発見した。 CNKSR1とPTPRHの結合阻害剤は、抗HER2療法が耐性となったHER2陽性乳癌において新規治療薬となる可能性がある。
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