研究課題
本研究は、新生児・乳児期の腸管不全患児において、長期静脈栄養管理時に経験する難治性の胆汁うっ滞性肝障害の進行、静脈栄養関連肝障害(Parenteral nutrition-associated liver disease: PNALD)の制御を目的としている。エイコサペンタ塩酸(EPA)とinsulin-like growth factor-1(IGF-1)の両者を用いた新規治療法の開発をめざしている。魚油由来の脂肪乳剤の中のEPAが持つ抗炎症作用に有用性が期待されている。実際に魚油脂肪乳剤を用いた結果高度の胆汁うっ滞性肝障害が軽快した症例を複数経験している。しかし、製剤自体の易酸化変化も考慮しなければならない。小児に実際に使用する少量ずつの管理では工夫を要するため、その安定供給方法を特定する必要がある。密閉・酸素吸着剤の同封・遮光の処理を加えることによって、製剤自体の酸化防止を担保する方法を確立しつつある。一方、今回着目しているIGF-1は、組織修復に関連するホルモンとして、腸管粘膜増成作用を有することに加えて、肝疾患に対する有効性の報告も散見されるようになった。世界的に臨床治験が行われている腸管修復促進ホルモンGLP-2の上位ホルモンにあたる。この有用性について短腸静脈栄養モデルでの検証をする必要があると考え、小動物モデルから研究をすすめている。若齢ラットの腸管を切除し、短小腸状況をつくり、経静脈からカニュレーションして静脈栄養を行い管理をしている。モデルの安定性が得られてきている。
3: やや遅れている
本研究における重要な項目について確認作業を行っているため。現在、EPAを含む特殊脂肪乳剤は、本邦では入手と使用が限られている。このため、特殊脂肪乳剤製剤の有効保存法について検証をすすめている。最も大きな問題点が、魚油脂肪乳剤自体の易酸化による劣化にある。脂肪乳剤を分注して保存する際、酸化防止処置を施すことによって、一定期間劣化が抑制可能なことを確認している。また、幼若ラットを用いた短小腸静脈栄養管理モデルの安定化に取り組んでいる。静脈栄養管理モデルは既に安定性が保たれ開発済であるが、消化管吸収面積の減少に関わる全身へのストレスが加わった状態の短小腸静脈栄養管理モデルの安定化をはからねばならなず、目下取り組んでいる。
対象製剤の安定保存方法の確立、幼若ラット短小腸静脈栄養管理モデルの安定化を図った後、EPAおよびIGF-1による肝細胞への酸化ストレス軽減効果をモデルで検証する。小型動物での検証体制が確立できた後、大型動物での検証体制づくりに移行する。ヒト新生児と解剖学的相同性、代謝生理学的類似性の最も高い新生仔ブタを用いる。鹿児島大学では、医用ミニブタを用いた研究施設があるため、新生仔ブタの飼育体制構築に応用を考えている。新生仔ブタの完全静脈栄養管理(TPN)下の飼育を行うことが、第一段階の目標となる。研究代表者の海外での実験経験から、2~3週間のTPN管理において、血液生化学検査でビリルビンおよび総胆汁酸の上昇をみとめることが分かっており、総胆管カニュレーションによって実際の胆汁流出量の低下が確認でき、17日間の観察で組織学的には胆汁うっ滞性肝障害を生じることは既に解明している。さらに、小腸切除による短腸モデルの長期飼育と実験応用を図りたい。
製剤安定保存方法の工夫と実証、モデル動物の安定性に取り組む必要性があり、実験計画の遂行に次年度使用を要している。
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Pediatric surgery international
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