乳がんのなかには、キードラッグであるタキサン系薬剤に抵抗性を示すものがあり、その抵抗性の克服が臨床的課題となっている。私たちはこれまでの研究で、ゲノム変異を誘導するAPOBEC3F遺伝子がタキサン系薬剤抵抗性に関与していることを見出した。 APOBEC3Fに関してこれまでに行った実験として、TaqMan RT-PCRシステムを用いて、約500例の乳がん症例のうち、術後化学療法としてタキサン系薬剤を使用した124例を対象に、乳がん凍結標本からRNAを抽出し、APOBEC3FのmRNA発現と臨床病理学的因子および予後を検討。結果、APOBEC3F高発現は極めて予後不良であった。また、腫瘍径、腋窩リンパ節転移の有無、核異型度、ER、PgR、HER2、化学療法の有無、APOBEC3F mRNAの発現を無再発生存期間、全生存期間について単変量、多変量解析を行った結果、無再発生存率のCox比例ハザードモデルで、核異型度やER、PgRと同様にAPOBEC3F発現量は単変量で有意な予後因子となったが、多変量解析ではAPOBEC3Fは有意な予後因子とはならなかった。また、症例数を約600例に増やし予後解析すると、APOBEC3F高発現は予後不良な傾向にあったが、統計学的な有意差はなかった。蛋白発現についても同様であった。 乳がん細胞株を用いてAPOBEC3FのmRNA発現をTaqMan RT-PCRにて測定したところ、乳がん細胞株のうち、MCF7よりT47Dに高発現であることを確認した。このT47Dを用いてAPOBEC3F発現をsiRNAにてノックダウンさせ、WST-1アッセイにて細胞増殖能の変化を確認した。Negative controlと比較して、siRNAの濃度を高濃度にするほど細胞増殖能が低下した。 また、細胞増殖能の指標となるCCND1やMKI67との相関も確認したところ、CCDN1とは相関はなかったが、MKI67とは相関関係を認めた。 以上より、APOBEC3Fは高発現だと予後が悪いことが示唆された。
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