研究課題/領域番号 |
19K18038
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
浅野 有香 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 後期臨床研究医 (10806376)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳癌 / アンドロゲン受容体 / 腫瘍微小環境 / 腫瘍免疫 / CDK4/6阻害剤 |
研究実績の概要 |
乳癌の多くはエストロゲン依存性の増殖を示すことは知られているものの,同じ性ステロイドホルモンであるアンドロゲンの意義については不明な点が多い.申請者はこれまでにトリプルネガティブ乳癌(triple-negative breast cancer, TNBC)におけるアンドロゲン受容体(AR)発現の意義を検証し,AR発現のあるTNBCは 予後良好であるものの,化学療法感受性は低いことを明らかにしてきた。またステロイドホルモンの局所合成機構は,癌にとって有利な腫瘍微小環境(tumor microenvironment, TME)を形成しており,薬物療法の修飾によるTMEのダイナミックな変化は治療効果や予後を予測する上で重要な鍵となるものと考えられる. 一方で,エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌において新たなkey drugとして注目されているCDK4/6阻害剤は,国際第III試験での臨床的有用性は示されているもの の,基礎研究においてはTMEを悪化させてしまうという報告もある.そのためCDK4/6阻害剤投与後の後治療(post-progression therapy)の選択は,今後取り組む べき臨床的課題とされている.本研究は,TMEにおけるアンドロゲン作用の分子機構の解明やCDK4/6阻害剤によるTMEのダイナミックな変化を検証し,トランス レーショナル研究の観点から『アンドロゲンシグナリングから捉えたCDK4/6阻害剤による新たな乳癌治療戦略』の構築を目的とする.本邦においてCDK4/6阻害剤が広く使用されるようになり,様々な臨床的課題が見えてくるようになった.本研究での基礎的検証は,耐性機序を含め,それらの臨床的課題の解決の一助になると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はTMEにおけるアンドロゲン作用の分子機構の解明やCDK4/6阻害剤によるTMEのダイナミックな変化を検証し,トランスレーショナル研究の観点から『アン ドロゲンシグナリングから捉えたCDK4/6阻害剤による新たな乳癌治療戦略』の構築を目的とする.このようにCDK4/6阻害剤や抗アンドロゲン療法によるTMEの動 的変化を様々な観点からアプローチし解明していくことで,新たな治療選択を探究することが本研究の特色であり,独創的かつ創造的なトランスレーショナル研 究が展開されている. FACSを用いてMDA-MB-231-ARと親株に対して,CDK4/6阻害剤(palbociclib, ribociclib, abemaciclib)がcell cycleやapoptosisに及ぼす影響を比較検討した.ホ ルモン依存性のTNBC細胞株では,親株と比較してCDK4/6阻害剤によりapoptosisの誘導が認められた. またCDK4/6阻害剤の耐性株の樹立に取り組み,palbociclibおよびabemaciclibの耐性株の樹立に成功した.これらの耐性株には交差耐性が認められなかった.ま た親株と耐性株を用いてメタボロミクスを行ったところ,palbociclibとabemaciclibの代謝経路では競合に差は認めらなかった.また乳腺/ピリルビン比の改善 など,CDK4/6阻害剤により酸化的リン酸化により代謝競合が改善されることが明らかになった. 初年度であり研究結果については,系統だった考察までには至らないが,全体としては今後の研究総括に向けて順調な進捗と思われる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は今年度の研究結果をもとに,さらに具体的な研究をすすめていく.現在までの研究を継続し,AR陽性TNBCの代謝競合と免疫微小環境変化についての検証 をすすめる.具体的には抗アンドロゲン剤やCDK4/6阻害剤,あるいはEMT抑制作用が報告されている微小管阻害剤(エリブリン)の修飾による腫瘍免疫微小環境の 動的な変化を代謝競合から捉え,分子生物学的に明らかにする.殺細胞性抗癌剤,分子標的治療薬,内分泌療法,免疫療法など,これらの組み合わせにより更な る効果が期待できる治療選択肢を検索する(併用療法の可能性の検証).さらにCDK4/6阻害剤投与後のmTOR阻害剤(everolimus)やPI3K阻害剤(alpelisib)による遂 次療法の可能性を検証する.具体的には,MDA-MB-231-ARと親株を使用してCDK4/6阻害剤の処理後にeverolimusやalpelisibを投与し,前述と同様の手法にてTME 変化を検証していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度使用が生じた理由としては,これまでの研究は耐性細胞株の樹立など経費のかからない実験が主であった.次年度では,これらの細胞株を用いて更なる詳細な アプローチを予定している. 抗体や消耗器具など,この後の物品費の購入にあてる予定である.
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