研究課題
乳癌の多くはエストロゲン依存性の増殖を示すことは知られているものの,同じ性ステロイドホルモンであるアンドロゲンの意義については不明な点が多い.申請者はこれまでにトリプルネガティブ乳癌 (TNBC) におけるアンドロゲン受容体 (AR) 発現の意義を検証し,AR発現のあるTNBCは予後良好であるものの,化学療法感受性は低いことを明らかにしてきた.さらにAR-V7発現のある症例については,内分泌療法感受性が低く,化学療法の感受性が高い可能性を示した.またステロイドホルモンの局所合成機構は,癌にとって有利な腫瘍微小環境 (TME) を形成しており,薬物療法の修飾によるTMEのダイナミックな変化は治療効果や予後を予測する上で重要な鍵となるものと考えられる.一方で,エストロゲン受容体 (ER) 陽性乳癌において新たなkey drugであるCDK4/6阻害剤は,その臨床的有用性は示されているものの,基礎研究においてはTMEを悪化させてしまうという報告もある.そのためCDK4/6阻害剤投与後の後治療の選択は,今後取り組むべき臨床的課題である.CDK4/6阻害剤のシーケンシャル投与の有用性など,臨床的な検証結果は散見されるものの,現時点でエビデンスとしての確立はない.そこで本研究は,TMEにおけるアンドロゲン作用の分子機構の解明や,CDK4/6阻害剤の修飾によるTMEの動的変化をトランスレーショナル手法にて検証する.CDK4/6阻害剤の効果にAR発現はどのような関与を示すのかを明らかにしていきたい.
3: やや遅れている
本研究はTMEにおけるアンドロゲン作用の分子機構の解明やCDK4/6阻害剤によるTMEのダイナミックな変化を検証し,トランスレーショナル研究の観点から『アンドロゲンシグナリングから捉えたCDK4/6阻害剤による新たな乳癌治療戦略』の構築を目的とする.このようにCDK4/6阻害剤や抗アンドロゲン療法によるTMEの動的変化を様々な観点からアプローチし解明していくことで,新たな治療選択を探究することが本研究の特色であり,独創的かつ創造的なトランスレーショナル研究が展開されている. FACSを用いてMDA-MB-231-ARと親株に対して,CDK4/6阻害剤 (palbociclib, ribociclib, abemaciclib) がcell cycleやapoptosisに及ぼす影響を比較検討した.ホルモン依存性のTNBC細胞株では,親株と比較してCDK4/6阻害剤によりapoptosisの誘導が認められた.またCDK4/6阻害剤の耐性株の樹立に取り組み,palbociclibおよびabemaciclibの耐性株の樹立に成功した.これらの耐性株には交差耐性が認められなかった.また親株と耐性株を用いてメタ ボロミクスを行ったところ,palbociclibとabemaciclibの代謝経路では競合に差は認めらなかった.また乳酸/ピリルビン比の改善など,CDK4/6阻害剤により酸化的リン酸化により代謝競合が改善されることが明らかになった.これは新たな発見であり,CDK4/6阻害剤投与後の薬剤選択に大きな影響を与える可能性が示唆された.これらの研究結果から導かれる科学的知見を今後の臨床応用にリンクさせるべく,最終段階の調整をすすめていく.
これまでの研究結果をもとに,本研究の総括をすすめていく.具体的には,実臨床にてCDK4/6阻害剤を用いた症例を抽出して,腫瘍微小環境の動的変化と臨床的有用性の相関を解析していく.それにより,CDK4/6阻害座の使いわけや逐次治療の可能性を明らかにすることができる.最終段階では,CDK4/6阻害剤の効果にAR発現はどのような関与を示すのかを検証する.
次年度使用が生じた理由としては,これまでの研究は耐性細胞株の樹立など経費のかからない実験が主であった.次年度は,これらの臨床データ解析を行っていくため,解析に必要な資材の購入を要する.
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件)
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