<背景>ZEB1遺伝子は,上皮間葉細胞転換(EMT)を誘導するEMT誘導転写因子としての機能を有し,EMTにおいて中心的な役割を果たしている.特に癌においては抗癌剤抵抗性,癌幹細胞性など様々な悪性形質獲得にも寄与することが示されており,近年非常に注目されている.乳癌においても化学療法抵抗性に関わると報告されているが,トリプルネガティブ乳癌での研究は行われていない.今回われわれは,当院にてトリプルネガティブ乳癌の術前化学療法を施行した検体を用いて,ZEB1遺伝子が化学療法抵抗性や予後と関わるかを検証した. <方法>2006年~2013年に当院で術前化学療法を施行し手術を行った乳癌385例のうち,針生検組織の免疫染色が可能であったトリプルネガティブ乳癌46例を対象とした.針生検組織および手術検体を用いてZEB1の免疫染色を行い,化学療法抵抗性や予後との関連性を検討した.ZEB1の染色強度は,1+:1~15%軽度染色,2+:16~30%中等度染色,3+:31%以上強度染色とした. <結果>化学療法前の針生検組織では,1+が30例,2+が14例,3+が2例であった.染色強度が強い方(2+以上)が,化学療法奏効度が高い(病理学的奏効度2以上である)傾向であった(p=0.0202).再発をした症例は15例(33%)であった.ZEB1の染色強度と再発の有無で明らかな関連性は見られなかった.ZEB1で染色される細胞には,円形の細胞と紡錘形の細胞が見られ,紡錘形の細胞が多い方が再発率は高い傾向であった(p=0.057). <考察>ZEB1遺伝子は化学療法抵抗性に関わる因子であり,染色強度の高い方が化学療法の奏効率が低いとされる報告が多いが,トリプルネガティブ乳癌においては逆の結果であった.またZEB1遺伝子はEMTに関わる重要な因子であるが,単独では予後と関わる因子にはならないことが示唆された.
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