従来のバルクの次世代シークエンスの様な遺伝子発現解析は培養ウェル内の細胞集団全体を対象としており、出力された解析結果は細胞集団(バルク)における平均状態を表す。しかし、申請者は同じウェル内で培養したOPCに遊走能や分裂能などの特性が異なる細胞集団が混在することを実感し、ウェル全体の解析を行っても、個々の細胞の状態を評価するのは難しいと考えた。そこで、本年度はOPC特異的マーカーの発現が顕著に確認された分化段階の培養細胞に対し、シングルセルRNA発現解析を行った。 シークエンスの結果はCell Rangerパイプラインを用いて1次解析し、細胞として認められたドロップの数は2737個、ドロップあたり平均3078種類の遺伝子の発現プロファイルを得ることができた。 Seuratパイプラインに乗せて2次解析を行った結果、同ウェル由来の全細胞は21個のクラスターに分けることができた。これらのクラスターは発現の特異性解析により、異なる発現パターンを有していることが分かった。個々のクラスターの特異的マーカーを抽出することで、一部の細胞はOPC特異的マーカーを発現していることが判明した。また、スプライシング度合いによる発現遺伝子のvelocityを解析した結果、OPC特異的マーカーを発現するクラスターに分化が向かっている細胞群と分化先となる細胞群を特定することができた。これらの細胞群を分化時系列順に並べた上で、それぞれの細胞で発現が増加、あるいは減少しているlncRNAをピックアップすることで、分化時系列で発現が変動し、OPCへの分化を制御している可能性のあるlncRNAのプロファイルを作成することができた。
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