ER陽性乳癌は全乳癌の約8割をしめており、ホルモン療法が奏効するタイプとされているが、その内の約30%はホルモン療法抵抗性を示すため予後不良である。ホルモン療法抵抗性乳癌の治療成績向上が重要な課題であり、我々は今回RIN1遺伝子の発現がホルモン療法抵抗性に関与していると仮説を立て研究を行った。全乳癌症例において、RIN1低発現は無病生存期間・全生存期間(DFS・OS)において有意差を持って予後不良で有り、ER陽性乳癌においてもOSで予後不良であった。これはER陰性乳癌・トリプルネガティブ乳癌においては差を認めなかった。RIN1遺伝子の発現量に各サブタイプの関連は認めなかったが、RIN1を高発現群と低発現群に分けて解析した結果、RIN1の低発現はgradeが低いこととER陽性、またHER2陰性が関連している結果であった。仮説では転移・遊走能にも関連することを言及しており、腋窩リンパ節転移症例で検討を行ったがRIN1の発現による予後の差は認めなかった。続いて、ホルモン療法抵抗性に着目し、日常臨床で非常に多用されるタモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の2剤の投与症例をそれぞれ抽出して、RIN1の発現別で予後との関連を確認した。タモキシエフェンでは予後に差を認めなかったものの、アロマターゼ阻害薬の投与症例において、RIN1の低発現は全生存期間が有意に不良であった。DFSには統計学的な差を認めなかったが、RIN1低発現が予後不良な傾向にあった。症例数を増やしても検討した結果、全乳癌・ER陽性乳癌いずれにおいてもDFS・OSでRIN低発現群が予後不良という結果で有った。これはRIN1発現がER陽性乳癌の予後因子であることを示した。今後はアロマターゼ阻害薬の抵抗性を示す原因を突き止めていく。
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